あなたが、もし一人で、恐いことを味わったら、どうしますか?
植木たちは、天界にあるホテルで、一夜を過ごしていた。
夜は、ガヤガヤと騒いでいた植木たちだったが、11時30分くらいになると、全員自分の部屋に戻った。
森は闘いのあとで疲れているのだが、なぜだかあまり寝付けなかった。
(なんだか・・・眠れない)
起きた時間は、深夜1時。寝てからたったの2時間近くしかたっていない。
何回も寝ようとしたのだが、やっぱり寝付けない。
「なにかテレビでも見てよ・・・」
とはいっても、今は深夜。
子供向けの番組がやっている可能性は低い。
それはわかっていたのだが、何もすることがないので、テレビを見ることにした。
案の定、テレビでは夕方の時間帯にやるような番組はなかった。
「ないわよね。やっぱり・・・」
と思って、最後のチャンネルに変えた瞬間。
「キャーーーーー!」
という悲鳴が、テレビから聞こえた。
思わず、森もビクッとする。
なんと、その番組は、あのジェ○ソンがでてくる映画だったのだ。
さすがに恐くなって、チャンネルを変えようとスイッチを探したのだが、自分が驚いたときに、どっかにいってしまった。
(ど、どうしよう・・・あ、あたしこんなの見ていたくないよ)
と入っても、見るのが定め。
このホテルのテレビは、なぜかテレビについているチャンネルが隠されているし、主電源や副電源もチャンネルでつけることしかできなかった。
だから、テレビを消すこともできない。
「助けてーーーーーー!」
また、テレビから悲鳴が聞こえる。
森はあまりの恐さに、ベッドの中にもぐりこんだ。
(恐いよ・・・助けて、植木)
なにやら、恐いと感じていることが、いつもと違うが、やっぱり植木に自分は頼った。
テレビから聞こえてくる悲鳴。
それを必死に掛け布団で聞かないようにしていたが、やっぱり聞こえてしまう。
そのせいで、寝るにも寝れない。
すると、そのとき。
「トン トン トン」
とドアをノックする音が聞こえた。
森はビクッと震えた。
(い、いまのって、テレビからだよね・・・)
しかし、またノックする音が聞こえる。
その音が、自分の部屋のドアから聞こえることに森は気づいた。
(ひょっとして、幽霊じゃないよね・・・)
あまりにも、ジェ○ソンが恐かったので、幽霊かと思った。
森が、のぞき窓をみると、そこにいたのは植木だった。
「森、大丈夫か?」
植木がいたことには驚いたが、心の中では安心した。
こういうとき、いちばん頼りになるからだ。
「植木だったんだ。驚かさないでよ」
森はとりあえず、自分の部屋に、植木をいれた。
「ところで、なんで植木がここにきたの?」
「いや、となりの部屋だっただろ。そしたら、いきなり悲鳴が聞こえるもんだから。森に何かあったのかって心配になって、きたんだ」
森は、植木が心配してくれたことが心底嬉しかった。
「植木。ありがと・・・」
「んで、なにがあったんだ?」
植木に、テレビの番組を見せて、理由を説明した。
「なるほど。あの悲鳴は、森からじゃなかったのか。よかった」
「あたしだって、悲鳴出た瞬間は、本当に恐かったんだから・・・」
植木は、森が幽霊や、そういう系が苦手なことを知っていたので、納得した。
とはいっても、テレビのスイッチが見つからないので、テレビはつけっぱなしにしておくしかなかった。
「じゃあ、おれ。そろそろ戻るから」
「うん。植木、ありがとね・・・」
森は、本当は、このまま植木にいて欲しいと思っていたが、それでは植木に迷惑がかかるので、言わないでおいた。
森の部屋のドアノブに手を伸ばした植木だったが、次の瞬間。
「動かない・・・」
「へ?」
植木がドアノブを必死に回そうとしているのだが、まったく動かない。
「どうなってんだ。これ」
すると、森があることに気づく。
「なにこれ?ドアノブに書いてある」
「ん?なんだ?」
そこには、ちっちゃい文字であることが書いてあった。
「午前1時半から、午前5時までは、安心して休息できるように、中からもロックします。って、え?」
はっきりいって、状況理解は早かった。
植木が入ってきたのは、だいたい25分くらい。
今は、35分。このドアノブの表示だと、たしかに閉まっている時間だ。
「なんで天界は、こんな風なんだ?」
植木は、相変わらずのマイペース。いまおかれている状況が理解できてるのかもなぞ。
(う、植木は気づいてないのかな?つ、つまり、あたしと植木は、午前5時まで・・・)
二人きり。ということである。
知らないうちに、森の顔が赤くなる。
「ん?どうしたんだ、森?顔が真っ赤だぞ」
あいかわらず、植木はのんきである。自分はあわてているというのに、状況を知らない植木が少しうらやましかった。
「ねえ、植木。いまの状況が、どんなことかわかってる?」
森はついに気になって聞いてみた。
「いまの状況?べつになんとも・・・はっ!」
なにやら、植木も気づいたようである。
しかし、顔が赤くならない。
(なんで、恥ずかしくないのよ!それとも、あたしと二人きりでもなんとも思わないの?)
森はすっかり、自分と同じことを植木は考えたのだと思った。
しかし植木から出た言葉は、
「やべえ。荷物整理してねえ。明日に片付け間に合うかな?」
という言葉だった。
「は?」
おもわず、森は気が抜ける。
自分の思い過ごしと気づいた瞬間は、なぜかホッとしたが、植木の鈍感さにあきれて、ため息をついた。
(はぁー。なんで、あいつはこんな風なのかな?)
ため息をついたときに、植木が笑ったのに、森は気づかなかった。
植木のことが好きになった自分が、なぜか植木には、なんとも思われていない感じがする。
いつになったら、植木は気づいてくれるのだろう、と、森は思った。
いまの状況。自分の気持ち。
植木が鈍感なのはわかっている。でも、やっぱり気づいて欲しい。
森のそんな願いを知ってか知らずか、植木と隣り合わせにソファに座った。
あいかわらず、森の心臓はドキドキいっている。
この心臓の鼓動は、テレビが恐くてドキドキしているのではない。
植木が側にいることが、嬉しい反面、恥ずかしいからドキドキしているのだ。
とはいっても、植木は先ほどから何もしゃべらない。
あまりテレビを見ないようにしているのだが、声は聞こえてしまう。
(やっぱり、恐いよ)
少し体をビクビク震えさせていると、自然に自分の右肩に手が置かれた。
(え?)
それは、植木の手だった。
植木は、自分のほうに森を持っていき、自分のすぐ近くに持ってきた。
しかし、右肩におかれた植木の手は離れない。
「う、植木!?」
植木が、間近に接近したことと、植木が肩を抱いていることに森は動揺を隠せなかった。
「恐いのか?」
「う、うん」
佐野たちには、強がっている森だが、植木には素直に打ち明ける。
「おれがそばにいるから、安心しろ」
「ありがと、植木」
植木からの優しい言葉、気遣い。
一つひとつが自分にとって嬉しいこと。
そこが、心を惹かれたのかもしれない。
「それに、幽霊が恐くても、いまはおれしかいないから安心しろ」
「うん。わかった」
なにげない会話。だが、森はさっきの会話の相違点に気づいた。
(い、いま。植木、おれしかいないっていったわよね。ひょっとして植木・・・)
植木のほうをむいた。
植木は、少し照れたように笑っている。
「二人だけしかいないから、安心しろ。ほかに誰もいないから・・・」
「植木、気づいてたの?」
「当たり前だろ。おれだってそこまで鈍感じゃねえよ」
植木が、二人きりのことを知っていたことに驚きながらも、安心できる場所を得た森は、植木の、体に寄りかかり、瞼を閉じた。
植木も、その後、森の肩を抱いたまま瞼を閉じた。
あなたは、恐いことを味わったらどうしますか?
あたしは、ちゃんと、側にいてくれて、守ってくれる人がいます。
だから、恐くありません。あたしにとって恐いのは、この人がいなくなることだけだから・・・
おまけ
やがて、目が覚めた森は、となりに眠る植木を見ていた。
(植木がいるから、あたしはいま生きてるのかもね)
そう思って、植木の額に、口づけをした。
寝込みを襲ったことが恥ずかしくなった森は、急いでその場を離れようとしたが、次の瞬間、手をつかまれた。
「キャ!」
「なにやってんだ?」
植木は、どうやら起きていたようだ。どうやら、森と同じらしく、森の寝顔を見ていたら、森が目を覚ましそうだったので、寝たふりをしていたのだ。
「人が寝てるのに、こんなことするのか。森は」
「あ、ご、ゴメン。もう、しないから・・・」
植木が起きていたことが恥ずかしかったが、植木が笑ったことが恐かった。
(な、なんかいやな予感がする・・・)
その予感は的中した。
「じゃあ、お仕置きをしないとな」
「え?キャッ!」
植木は、森をベッドのうえに押し倒した。
「ちょ、ちょっと、なにするのよ!」
「なにって、お仕置き」
この部屋はオートロック。当然、外からは誰も来ない。
部屋からは、森の悲鳴が上がったとさ。
終了
あとがき
いや、なんとなく書いてみましたが、だめだな。
なんで、こんなのばっか書いちゃうんだろ。ん〜なぞ。
まあ、友達が甘いのを書けっていったから書いたってこともあるけど・・・
なんか、ぼくの作品は、キャラが壊れるときが多いなって思う。
以上、朔夜でした。
2004年12月7日