「で、どうなんだ?」

「って、最初はそう思ってただけで……」

「ふーん……。」

「って、あのときは事情すら分からなかったんだから仕方ないでしょ!!」

 こんな風に植木と森が揉めていた理由は、30分前までさかのぼる。

 

……

 

 昼休み、廊下を歩いているときコバセンとすれ違った。

 そこまではいい。いつもの風景だ。

 だが、そこからは違った。

「おい。植木。放課後に職員室まで来い」

 植木にだけ聞こえるような声で、コバセンは植木に囁いた。

「?」

 呼び出されるような理由が見当たらないためか、植木は首をかしげた。

(何か俺、したか?)

 元々、コバセンは、性格がまともな教師ではない。

 というか、教師らしくないとまで、言ってもいいだろう。

(まっ、いっか……)

 元々、めんどくさがり屋の植木は何とも思うことなく、放課後に職員室に行くことにした。

 そして、その日の放課後……

 案の定、植木は今、職員室へと向かっている。

 そしてその隣には、クラスメイトでもあり、親友でもある森あいの姿。

「だから何で、お前まで着いてくるんだ?」

「べっ、別にいいでしょ。」

 そんな森の態度に植木は?と疑問を抱いた。

(わからん……)

 そんな植木の態度とは裏腹に、森の心境は少し乱れていた。

(はぁ……。一緒に帰りたい。って一言言えればいいのにね……。何やってんだろ! 私の馬鹿!)

 実際、植木についてくる理由は植木と一緒に帰りたいからなのだが……。

 鈍感すぎる植木からしてみれば、森の思いはちっとも伝わっていないようである。

 言わなければ伝わらないことは分かっているのだが……、森の性格上言えるわけがない。

「森。そこで待ってろ」

「え? あっ……うん」

 どうやら森が考え込んでいる間に、二人は職員室の前まで来てしまったようだ。

 まさか用事もない人間が職員室に入るわけにもいかないので、植木は森を職員室の前で待たすことに決めた。

 そして、森はそれに素直に同意し、小さく頷いた。

 ガラガラと植木は職員室のドアを開き、入ると同時に「失礼します」というと、再び後ろを振り向いてドアを閉めた。

「はぁ……」

 植木の姿が消えた時点で、森は小さくため息をついた。

 

「で、コバセン。何の用?」

「まぁ座れ」

 コバセンは近くの椅子に植木を座らせると、ゆっくりと話し始めた。

 他の先生もいるが、二人はまったく気にしていないようである。

「“森”のことなんだがな……」

「森?」

 真剣な面持ちで話し始めたコバセン。

 森のことで大変なことが起きたのか。と思い、植木も真剣な表情に変わった。

 と、思いきや……

「お前、あいつのことどう思う?」

 ニヤリと表情を変えて、コバセンは植木に聞いた。

「はっ?」

 予想していた言葉とまったく違っていたせいか、植木は変な声を上げてしまった。

 そんな植木に、コバセンはニヤニヤと厭らしい笑いを見せて、再び問いかける。

「だから、森のことはどう思ってんだよ?」

「どう思うって言われてもなぁ……。森は大切な仲間だし」

「それだけか?」

 それ以外の答えを望んでいるかのように、コバセンは顔を突き出して問いかけてくる。

 そんなコバセンを植木は疑問に思いながらも答える。

「それだけって言われても……。仲がいいとかそういうところだろ」

 植木がそう答えると、それ以上の答えは望めないと判断したのか、またもや予想していた答えが返ってきたのか、コバセンは突き出していた顔を元に戻した。

「ほう……」

 そんなコバセンの態度に植木は疑問を抱きながらも、そろそろ切り上げようかと思って言葉を発する。

「コバセン。もういい? そろそろ帰らないと翔子姉ちゃんが心配するからさ」

 そう言って立ち上がろうとする植木だったが、それをコバセンが許さなかった。

 いや、許さなかったのではない。自ら、足を止めたのかもしれない。

 コバセンの一言が。

「じゃあ、森がお前のこと、どう思ってるか知りたいか?」

 その言葉を聞くと、自然と植木の身体は、微妙な体勢でストップした。

「何でそんなこと、コバセンが知ってんだ?」

「そんなもん、いつもの森の様子を見てれば大抵のやつは分かる」

 何気にコバセンは、植木を鈍感男と貶しを入れて話したのだが、植木は?と貶されていることは分かっていないようだ。

「それとだ、お前もいつも疑問に思っているだろう。何故、森がいつも自分に着いてくるのかを」

 コバセンの言葉に、植木は小さくうなずいた。

 これに関しては、植木も疑問を持っていたようで、知りたい気もあったからだ。

「答えは簡単だ。森はお前に興味を持っているからだ。」

「はっ?」

 何気に今、すごいことをコバセンが発したような気がする。

 ここに森が居たら、物凄い形相で飛び掛っていきそうなそんな言葉を

「まぁ、興味を持っているとは言っても、宇宙人としてだがな」

「宇宙人として?」

 今までのコバセンの言葉ですら理解できなかったのに、いきなり宇宙人として興味をもたれていると言われても余計にチンプンカンプンだ。

 植木は頭の上にまで?マークが出てきそうなくらい、首をかしげた。

(全然、わからん。コバセンは何が言いたいんだ?)

「つまり森は、未だにお前のことを宇宙人として捉えているということだ。つまり、森がよくお前に着いてくるのも、“宇宙人はどういう行動をするんだろう”という疑問があるからだけで……」

 コバセンの言葉をそこまで聞くと、植木はスッと立ち上がり、駆け足で職員室を出て行った。

 何故、そんな行動をしたのかは植木本人にも分からなかった。

だが、無性にムシャクシャするうえ、それ以上聞きたくもなかった。

 そんな気持ちが植木を動かしていた。

「って、おーい。冗談だって……。って、聞いちゃいねぇか」

 植木が走り去った後に、コバセンは諦めがかかった声で小さくそう呟いた。

 

「あっ。うえ……」

「ちょっと森、来てくれ」

 やっと職員室から植木が戻ってきたからか、少しばかり喜んでいた森。

 だが、そんな戻ってきた植木の表情は思いのほか強張っていた。

「う、植木? どうかしたの?」

「なぁ、森。お前さ……」

 森の言葉を、植木はまったく無視をするかのように問いかける。

 植木がこんな形で自分に問いかけてきたことは滅多にないもんだから、森は不思議に思った。

(どうしたんだろ? 植木ってば)

 だが、次の植木の言葉で、完全に森は取り乱してしまう。

「俺のこと、どう思う?」

「な、なっ!?」

 思わず森は、反射的に顔を真っ赤にさせる。

 それと同時に、植木の頭へと凄まじいチョップを叩き込む。

「って、あんたいきなり変なこと聞いてくるんじゃないわよぉぉぉぉ!!」

 あまりの衝撃に植木の首の骨が曲がりそうになるまでの衝撃が走った。

「いってぇぇぇぇぇ!! 何で俺が叩かれなきゃいけないんだよ」

「あんたが変なこと聞くからでしょうが!!」

 植木の言葉に、森は冷静な突っ込みを入れる。

 変な質問なのか? と考えながらも、気を取り直して植木は再び言葉を変えて聞いてみる。

「お前さ、俺のこと宇宙人って思ってるのか?」

「へっ?」

 森が植木のことを宇宙人と思っていたのは、植木とかかわり始める前までの話だ。

 今となっては、植木のことはちゃんとした人間だと思ってるし、そんなことは決してない。

「どうなんだよ?」

「そ、そりゃ最初はそう思ってたけど……。って、今は違うわよ!?」

 必死に真実を語る森。だが、慌てていては言い訳のようにしか聞こえてこないのも、また事実。

「ふーん……」

 森の言葉を信じていないのか、植木は適当な返事をする。

 そんな植木の言葉が癪に障ったのか、森も声を荒げてしまう。

「って、仕方ないでしょ!! あの時は、あんたの『ゴミを木に変える能力』なんて分かんなかったんだから!! そう考えても仕方ないじゃない!!」

 一瞬即発してしまいそうな雰囲気へと変わる……。

 だが、そんな雰囲気すら読めていないのか、植木は再び問いかける。

「じゃあさ、今はどう思ってるんだ?」

「えっ?」

「宇宙人と思っていたのは、昔のことなんだろ? じゃあ、今は違うってことじゃん。なら、俺のこと、どう思ってるんだ?」

「そ、それは……ッ」

 植木からの問いかけに、思わず森は俯いてしまう。

 『好き』と一言言えばいい。たったそれだけのことだ。

 だが、そんなことを自分が言えるわけがない。言ったところで、顔が真っ赤になることが自分でも想像が付くことだ。

 第一、失敗したらどうなる? こんな関係も今日で終わりになってしまう。

「で、どうなんだよ?」

「だっ、大事な友達よ……。」

 ひとまずそう誤魔化しておくことにした。

 すると、植木は今までの表情を、にんまりと和らげた。

「そっか。それならいいんだ。森も俺と同じだったんだな」

 うんうん。と一人で納得しながら、植木は顔を逸らす。

「あのさ……植木。」

「ん?」

 『好き』だとは言えなかった。でもこれぐらいはせめて……。

「一緒に帰ろ」

「……。ああ。」

 二人の歩く足音だけが、誰もいない廊下に木霊した。

 

終了

 

 

あとがき

 

お久しぶりに書いて見ました。この小説。

はっきり言うと、宇宙人というのはあまり関係ないような……。

ま、いっか。とりあえず、いいかもしれませんな。

とりあえず、今日はこの辺で