「今度の休み、暇?」
「うん。空いてる」
「動物園の無料券貰ったんだけど、行かない?」
ストロベリー
二人で出かけることは、これまでに多々あった。
だけど、森に好きだと告げてからは初。
デートだと意識するとこんなにも緊張するものなのか。
いつもTシャツにハーフパンツかジャージだけど、今日はちょっと違う。
Tシャツの上にチェックのシャツとパーカーを羽織り、ジーパンを履いた。
おかしくないだろうか?と、パーカーのチャックを締めたり開けたりと何度も繰り返す。
「おーい耕助、十時に迎えに行くんじゃなかったか?」
「あっ!じゃあ行ってきます!」
父ちゃんに言われて初めて時間に気付く。
慌てて家を出る前に、青春だなぁと声が聞こえた気がする。
無我夢中に走ったおかげで十時丁度に森ん家のチャイムを鳴らせた。
「おはよう」
「……おはよう」
家から出てきた森は、いつもと違う。
冬でも露出が多いのに、今日は足がピンクだったりと肌がでていない。
なんだかうまく言葉に表せれないけれど、ちょっと変な感じ。
荷物の大きさも気になった。
「荷物持とうか?」
「……平気」
「そっか、じゃあ」
「なに?」
手を延ばしたら、不思議そうな顔をされた。
なんか間違ったかと不安になりながら答える。
「手、繋ごうと思って」
そう言うと、森は驚いてから目を反らし、小さく頷いて手を伸ばしてくれた。
前は普通に手を繋いだりしてたハズなのに、酷く緊張する。
でもそれも、動物園の入場券と引き換えたときに離してから、再び繋ぐタイミングを失った。
ゾウにキリンにサルにシロクマ。
いろんな動物をみたけど手を繋がないまま、昼になってしまう。
「そろそろお昼にしよっか」
「あっ、私お弁当……」
作ってきたと、持っていた大きなバックを見せてくれた。
お弁当が入ってたから大きかったのかと納得しながら、座れる場所を探す。
森の弁当だって初めてじゃないのに、なんでこんなにも嬉しいんだろう?
園内にあるベンチに腰掛けると、自然に弁当が真ん中になる。
さっきよりも距離が離れてしまった。
この場合気にするポイントじゃないなと思い直して、いただきますと弁当を食べる。
見た目は変わらないけど、やっぱりいつも以上においしかった。
「次はどこ行く?ここからだと爬虫類館が近いみたいだけど」
「そこは飛ばす!」
キッパリと即答されてちょっと悲しい。
少しでも長く一緒にいられる口実が一つ減ったも同然だからだ。
もう一度と、勇気を出して立ち上がると同時に手を伸ばす。
その手に森が手を重ねてくれるのが、堪らなく嬉しい。
でもそんな幸せも束の間。
「あれ〜?あいちん?」
その一言で、勢いよく手が離された。
上がる一方だった気分は一気に下がる。
好きだと言ってその気持ちを受け取って貰えたからって、調子に乗っていたんだ。
森が友達と別れた後、手も繋がなければ会話もない。
完全に空気が悪くなってしまったけれど、解決法も俺にはわからない。
森の家までもうすぐの所でパーカーの袖を掴まれた。
振り向けば森が眉をよせて、必死に涙を堪えている。
「違うの………」
「……森?」
「嫌だったんじゃないの」
「うん?」
部屋中服を広げて今日の服を選んだ。
弁当だって朝早く起きて喜んでもらえたらと思って作った。
繋いだ手を離した後、また繋いでもらえなくて寂しかった。
せっかく繋げた手を、驚いただけで簡単に離してしまった後悔。
今日一日の事を森は話してくれた。
楽しみにしてたのも、嬉しく思ったのも、悲しく思ったのも、俺だけじゃなかったんだ。
ホッとした瞬間、俺のやるべき事が分かった。
それは目の前で今にも泣き出しそうな森を安心させること。
「森。手、繋いで帰ろう」
「………うん!」
今日一番の笑顔を見せてくれた森。
きっと俺も一番の笑顔。
いいことばかりじゃなかったけど、お互い初めて。
ゆっくり、俺達のペースで進んでいけばいいんだ。
緋依絽さまへ
「植木と森の『恋人』としての初デート」というリクエストだったのですが、こんなに初々しい二人が見られて最高ですっ!
いつもなら平然とやっていることでも、付き合いだすと気になってしまうもの・・・。
二人には「男女が二人で出かけたら、世間的にはデートだからな!?」、「大抵、付き合いだしてから手を繋ぐんだぞ!」と言ってやりたいですねっ!
恥ずかしかったがために自分が思わず取ってしまった行動に、後悔する森。
素直になりたい気持ちと、どうやって振舞っていけば分からない気持ちに揺れ動かされる森の苦悩がたまらないですね・・・。すごく切なくもありますし、純情だなぁとも感じたり(何
このような小説がいただけて、本当に嬉しいですっ! これからもよろしくお願い致しますm(_ _)m