それは析羅(さくら)と真久利(まくり)が出会う数ヶ月前の物語・・・。

「もしもし其処の方。」
 奴との出会いは唐突だった。
 「何?」と、冷たく言い放った後アタイは後ろを向く。
 其処にいたのは恐らく男。
 しかも・・・
「バ、バババ・・・バトルに出る気はありませんか?」
 相当ヤバイ奴だとアタイは直感した。

  第零.一話 彪音(あやね)と倖児(ゆきじ)

 なのでアタイは即行逃げた。
「あ!人を見かけで判断しないでお嬢さんー!!」
 アイツは逃げるアタイを全速力で追う。アタイも追いつけられまいと必死で逃げる。
「何で逃げるんですか!!?」
「ヤバイ奴だと勘が告げまくっているから!!」
「ヒドイ!!勘だけで人がどう言う存在か決め付けないで下さい!!」
 人混みに紛れた追いかけっこはまだ続く。
 とにかく逃げないと!!きっとアタイを捕まえたら変なビデオを撮りまくるに違いない!!そして撮られた後それを売ったり脅しの道具にするに違いない!!
 被害妄想も甚だしいですよ、彪音さん。

 とりあえず、何とか奴を撒いた。
「こ、此処まで来れば・・・」
「どうしたんですか彪音さん?」
 其処には析羅の弟・志爛(しらん)がいた。ソイツは本当に兄に似てなくて良かったと思うぐらいの美少年。「格好良い」と言うよりかは、「可愛い」の方が近い。
「ホッホー・・・君はショタ系が趣味なのですか」
「!!?」
 背後には奴がいた。奴は「はじめまして」と、志爛に挨拶をする。志爛も奴に挨拶を返した。
「な、何でお前が・・・」
「いやーボク六ツ星で良かったよ。電光石火使えば簡単に君の所へ追いつけるもの。」
 ライカ?何ソレ。
「さて白冷彪音(はくりょうあやね)さん」
 何でアタイのフルネーム知ってるんだよ!!
「話があるので、場所を移動しませんか?」
「・・・話・・・・・・?」

 アタイは志爛と別れて公園のベンチに座らされる。奴は気にもせずアタイの隣に座った。
「で?話って何さ、・・・えーと?」
「倖児です。」
「で、何の用?」
「バトルの件です。」
 バトル?そういやさっきもそんな事言ってたな・・・。
「ボク、実は天界って言う所に生まれた天界人で、次の神様になれる可能性を持つ100人の神候補の一人なんです。」
 は?
「で、次の神になる為には人間界の中学生を一人選考し、能力を与え、バトルをさせて・・・優勝させなければならないんですよ。」
 ・・・さっぱり解らん。別に神候補同士で戦えば良いじゃん。
「勿論優勝者には“空白の才”と言う一つだけ自分が求める才能を加える事が出来る権利が与えられます。」
 ふーん、大半の奴はそれ欲しさに戦う訳か、下らねー。
「で?何でアタイさ。」
「女子の方が華があるから!」
 アタイは拳に息をかけた後奴の顔面を殴り飛ばした。
「そんな理由か?」
「い、良いじゃないですか。それに女の子は色々な服に着替えてカード使って戦うんでしょ?魔女っ子とか、ピエロとか・・・」
 どっかで聞いた事あるようなネタだな、オイ・・・。
「まぁいいや、やってやるよ。」
 ウチ(私立小倉学園)はエスカレーターだから何もしなくても高校受験はないし、丁度良い暇潰しにはなりそうだ。
「そ、そうですか!!?」
 倖児は嬉しそうだ。
「ではどんな能力にしますか!?とりあえずどんな能力があったら欲しいか、言って下さい!!」
 能力?そうだなー・・・
 自分の願いは今の内に叶えときたい。
 なので
「一つの物を大量生産するような能力ない?」
「何故そのようなものを所望するのですか?」
「それなら犬ハーレムが出来るじゃないか。アタイの幼い頃からの夢だもの。」
「へぇ・・・まぁ、それっぽい能力ならありますよー」
「じゃ、それ。」
 能力決定。奴はアタイの額に手を当て光を放つ。
 ほんの一瞬の出来事だった。
「これで能力は与えました。」
「へぇー・・・どんな能力?」
「紙人形を影分身に変える能力です」
 紙人形を、影分身に?
「能力を使うには、限定条件が必要で・・・紙はありますか?」
 「あるよ」とアタイはこの間の小テストを鞄から取り出す。「ヒドイ点数ですねぇ、勉強しましょうよ」と倖児が点数を見て言うと、首筋にアタイの見事な蹴りが決まる。
「触れてますよね?」
 当たり前だろと言わんばかりにアタイは即頷く。
「それで紙人形を作って下さい。適当で良いですよ。」
 そう言われたのでアタイは適当にハサミを入れて紙人形を作る。出来たゴミは風で何処かに飛ばされた。
「能力を使ってみて下さい。」
 使ってって言われても、とりあえず言ってみるか。
「紙人形を、影分身に・・・変える能力。」
 紙人形は一つの者に形作られる。其処にはアタイがいた。
「これが貴方の能力です。動きも口調もその人そのもの、ただ貴方には絶対服従ですよ?」
 これには驚いた。これなら遅刻してもバレない。しかも奴隷に出来るのか・・・便利だな。
「あ、でも能力には限定条件がありまして、それをクリアしないと能力が使えないようになっております。貴方の場合は“影分身にする対象の指紋が紙人形に付いていないといけない”です。」
 なるほど、見ず知らずの人に変えるのは無理って事か。逆に言えば紙人形に触れた人ならば誰の姿にも変えられるって事か・・・。
「いい能力じゃん、ありがと倖児。」
 そう言ってアタイは奴に笑顔を見せる。
「そうですか。」
 倖児もアタイに笑顔を見せる。
「そう言う訳で」
 奴はアタイの視界に変な物を入れる。
 ヒラヒラの、フリルいっぱいのワンピース。
「最初の戦いではこの服を・・・」
 「誰が着るか!!」と言葉に出さず、アタイは容赦ない攻撃の雨霰で表現する。
「全く・・・そもそも何だよそのオタクルック言わんばかりの格好は!!」
 今更ながら奴の格好にツッコミを入れる。
「何って・・・最初はこんな格好じゃありませんでしたよ!?ただ、アキハバラって所に行ったらこの格好が最近のトレンドだって言うから・・・人間界の情報もあそこで収集してるし・・・」
 騙されてるよアンタ!!
 男勝りと言われる能力者と、オタク混ざりの神候補。
 彼女の戦いは、其処から既に始まっていたのである・・・。

  終わり

後日談

「彪音、先週の小テスト28点だったそうだな。」
 神剣(かばや)家に遊びに来ていた時析羅が唐突にアタイに告げた。
「な、何でそれを・・・?」
「この間買い物帰りの途中、紙切れを見つけてな、お前の名前と点数が書かれていたんだよ。」
「!!!」
 風に飛ばされた紙切れは、運悪く析羅に届いたと言う・・・