皆さん、浦島太郎と言う話を御存知ですか?
 虐められているカメを浦島は助け、竜宮城へ行き、貰った玉手箱で御爺さんになる話。
 さしずめ今日の状況は俺が浦島、
「助けて〜」
「弱ぁーい。お兄ちゃん弱すぎー」
 其処で子供に虐められる金髪の男が亀なのだろう。

  第零.二話 水寿(みすず)と如月(きさらぎ)

 とりあえず俺は亀を助けた。亀ではなく、人なのだが(しかも俺よりも背は高い男)。
「有難う少年、ボクは感動したよ」
 あっ、そ。
「そんな君にお願い、が・・・・・・」
 言い切ろうとしたが奴は横に倒れた。同時に腹の虫の音が聞こえる。
 腹減っているのか・・・?
「・・・しょうがない、」
 ひとまず家に連れてくるか・・・。

 家の中でコイツは食事を取ると笑顔で俺に礼を言った。
 笑顔よりも俺としては金が欲しい。
「再び有難う少年、ボクは感動したよ。そんな君にお願いがある。バトルに出てくれ。」
「・・・・・・・・・・・・バトル?」
「中学生を一人選んで、能力を与え、戦わせ、優勝させる。ただそれだけ。」
「あぁ。申し遅れたね、ボクは如月。百の神候補の内の一人だ。君は?」
「水寿だ、縹水寿(はなだみすず)」
 胡散臭い。さっさと帰ってくれんかなー・・・。
 あの人の為に俺は内職をせねば・・・。
「久し振りだな、水寿」
 独特の重低音が俺の耳の内に入る。
 傍から見ればチンピラに等しい。染色の金髪は見事に逆立っている。
「・・・何の用だ、皆水(みなみ)・・・!!」
 認めたくなくても、認めてしまう、俺のたった一人の実兄・・・・・・。
「何の用?何言ってんだ、此処は俺の家だぜぇ?何時帰ってもいいじゃねーか。それとも何だ?居候風情に、用件を言わなくちゃいけないのか?」
「ぐ・・・」
 図星を突かれながらも俺は尚奴の視線に憎悪を込める。

 両親はいない、俺が10歳の頃に仲良く交通事故でなくなった。
 他に身寄りもなく、俺は一番行きたくなかった兄の家に住む事になってしまった。
 奴が最悪なのは幼い頃からよく知っている。悪辣で、狡猾で 嗜虐あふるる残酷な男。正直、兄とは思いたくもない。
 でも、幸せだと思える時もある。

「やめて、二人とも!ケンカはやめて!!」
 一人の女性が二人の間を割って入る。
「茜(あかね)さん・・・」
 この人が、いたから・・・。
 茜さん、俺の初恋の人。初めて会った時にはもう皆水と付き合っていたが、それでも良い。
 俺は、あの人に 永遠の忠誠を、・・・・・・・・・誓う。
「・・・ちょっと良いかい?」
 如月は俺の学ランの襟を掴み自室へ連れ込んだ。

「君、あの人に惚れてるな?」
「!!?」
 いきなり核心を突かれ動揺する。
「さっきのバトルの件に戻るけど、優勝者には空白の才と言う、どんな才能でも一つもらえる権利が与えられるんだ。」
 才、能・・・?

 俺は、あの人の為に、 あの人の笑顔の為に、

 あの糞兄貴が借りてくる金全てを
「いいだろう、その話」
 返済の才で
「了解だ」
 耳揃えて返してみせる!!
「交渉、成立だね」
 如月、見かけによらず結構やり手だと感じた。
「なら早く能力を寄越せ、話はそれからだ。」
「うーん、そうだな・・・君にはこの能力が似合いそうだ。」
 待て、選択権はこっちにないのか!?
 そう言おうとすると奴は手をかざし、光を放つ。
 ものの一刹那。
「君に与えた能力は、相手の仲間を相手の敵の姿に変える能力。相手の攻撃によって100cc以上出血をしないと能力は使えない。勿論、単独犯に対しても能力は使えない。」
 相手の仲間を、相手の敵の姿に変える能力、か・・・。
「結構センスあるな、貴様。」
「そりゃどーも」
 一番厄介なこの能力を使うのは、それから一週間も経たない昼下がりの時期だった・・・。

  終わり