春麗らかな桜の花弁が舞い落ちる4月、奴と出会ったのはオレが15になったばかりの4月12日の事だった。
 初めて会った時の事は、今でも覚えている。いや、正確には印象に残りすぎて記憶に刻まれているのだ。
 桜の花が美しく咲き誇る春・・・、だが、オレにとってはその桜の花びらも、血で紅く染め上がるものなのだ。

  第零.三話 紋火(あやか)と斎(いつき)

 4月12日、オレが生まれた日。だが隣では今日も騒がしく殴り込み(カチコミ)の音が絶えない。
 銃声、何かを切る音、血花が咲いた音。聞きたくないのに、聞こえてしまう。
 この日に学校があったらどんなに良いか。この騒動も、聞かずに済む。
 こんな事本人の前で言ってしまったら申し訳ないが、銃声等で聞く耳もないだろう。
「・・・何で置いて逝ったんだ、お袋・・・?」
 母は10年前に首吊ってこの世を去った。当時5歳のオレを残して、独りで・・・・・・。
「それはさぞ寂しかった事でしょう。」
「だろうねぇ、その所為でPTSDがちでその歳で53回も自殺未遂犯した身だし・・・て、!!?」
 すぐさまオレは声の方向に身体を向けた。其処には浴衣姿の女性が正座してオレを見つめている。
 淡い灰色の髪、朱の瞳、それなりに美人だしオレはつい女性に見とれていた。
 が、ものの数秒で我に戻る。
「な・・・誰だお前は!?窓も無い所からどうやって侵入してきや・・・」
 そう、この部屋には窓がない。代々子供や女を隠す為に作られた隠し部屋なのだ。
 言い切ろうとするとまた銃声と殺陣の音が激しくなる。心臓に悪い家庭。これだから極道は嫌だ・・・。
 と思っていた所、女はその音を聞くや否や壁に寄り付く。目はそりゃぁもう輝かんばかりにきらめいている(あれ?矛盾してない??)。
「カチコミの音・・・お前もしかして極道者か!?」
「え?ま、まぁ 半分そうかも・・・」
 藤袴(ふじばかま)家に住んでいてもオレの姓は「赤杜(せきもり)」、なので戸籍には入っていない。でも極道に関わっていない訳ではない。でも一応堅気である。
「良かった・・・この世にいたのだな、極道に関わる中学生は!!」
 やけに女は楽しそうだ。
「で?何の用だよ。まず最初にどうやってこの部屋に来たのか説明してくれ。」
「正面突破だ!!」
 ・・・あーそうかい。確かに今はカチコミに集中してるから簡単に侵入出来そうだ。
「で、用と言うのは・・・こちらが本来の目的だ。」
 女は先程の雰囲気は一切感じさせず、真剣な表情を構える。その瞳・・・と言うか気迫にオレは呑まれた。
「お主、バトルに出る気はないか?」
「・・・バトル・・・?」

 全ては其処から始まった。
「つまり整理すると?お前は此処とは違う世界の人、で、次の神様になれる可能性を持っている存在、次の神になるには?中学生に能力を与え、中学生を優勝させる事って訳だな。」
 「信じてくれるのか?」と、女は期待している。
「信じねぇ、て言えば嘘にもなるな。この10年で幾度もなく自殺してるからな、嫌でも生きてない奴が見えちまう。」
 臨死体験って奴だな、と、それを見る度に思ってしまう。
「まぁそのバトルには参加してやるよ。外出の口実にもなるし。」
「本当か!?」
「で、参加するには能力与えなくちゃいけないんだろ?どんなのがあるんだ?」
 「あぁ、それならこのリストを見るといい。」と、女はオレに紙切れ一枚を見せる。
 ・相手の10秒間を相手の1秒間に変える能力
 ・風をナイフに変える能力
 ・相手をネズミに変える能力
 ・壁を生物に変える能力
 ・etc.etc.・・・
「・・・この中なら相手の10秒間を相手の1秒間に変える能力で・・・」
 使える能力だしな。
「んじゃぁ、与えるぞ。」
 奴はオレの眼前に手を添えると、僅かな光を放つ。光はやがて消え、消え終わると「これで能力は備わった」と、付け加えた。
 短時間で済むとは思ってなかったな・・・。
「能力を使うには少し注意して欲しい事がある。どの能力にも使用する際には限定条件をクリアしなければならない。そしてその能力は、相手の攻撃を受けてはならない。つまり能力を使っている間は避け続けなければならないのだ。」
「もし攻撃を受けたら?」
「能力は使えなくなる。」
 そりゃ、そうか。
「・・・そう言えば、名前は?聞いてなかったのだが。」
 女はオレをジーッと見つめながら問う。
「・・・赤杜だ、下の名前は問うな。」
「そうか、私は斎だ。以後お見知りおきを。」
 その笑顔は何処か幼さを感じる。オレよりも、年上の筈なのに・・・。
「紋火の坊ちゃん、カチコミ終了しましたー!!」
「もう出て来ていいですよー!」
 言った傍から下の名前をカミングアウトされたよ、チキショー。
「アヤカと言うのか、なかなか可愛い名前だなぁ。」
 だから教えたくないのに。
「て、此方の方は?」
「・・・話せば長くなるけど。多分今日から家に住む事になると思うから、其処の所よろしく。」
「斎と申す。極道や任侠に憧れて此方に参った。宜しく頼むぞ!」
 其処から全ては、始まった・・・・・・。

  終わり