ソイツは外観だけはオレよりも幼いのに、事実ではオレより年上。
 髪もヘンテコで毛先だけ違う色。
 でも幼い外観とは裏腹に、中身は物凄く大人な腹黒さを持っていて、
 ・・・ある意味「危険」と認知せざるを得ない。

  第零.五話 信(まこと)と捺谷木斎(なつやぎいつき)

 奴と出会った時は雨降りで、商店街で買い物を終えたオレは近くの屋根があるバス停で雨止みを待っていた時だった。
 空は濃い灰色の雨雲で覆われ、いつもの蒼い所が一つもない。

 ・・・そう言えばあの時もこんな雨が降ってたな・・・。

 そのバス停にそいつも雨宿りでやってきた。
「凄い雨ですねー、・・・丁度良い所に。君、中学生ですよね?僕は捺谷木斎。折り入って頼みがあるんですけど・・・、聞いてくれますか?」
 中学生。
 確かに、雨の所為でずぶ濡れだけど、暁中独特の遠目から見ればブレザーと勘違い出来る学ランは着ている訳だし、事実、一応中学生だから話を聞く事にした。
 が、流石に今は話を聞くには寒すぎるので俺の家まで連れて行く事にした。

 家と言ってもアパートなんだが。しかも「出る」って聞いた事がある。家賃が安いからそんなのは気にしない方針で生活している。
 見えるのはオレと、上の階にいる上海での幼馴染だけだし。
「お兄ちゃん、お帰りなさい」
 唯一の弟、実頼(みらい)が帰って来たオレを出迎える。雨で濡れていたからバスタオルを持ってきてくれた。ついでに奴は捺谷木の分も持って来てくれた。
「真(しん)は?」
 真はオレの双子の兄貴。家とは正反対の私立校に通っているから、あまり顔を合わす事が無い。
「真兄ちゃんなら今日は部活で遅くなるって。」
 「ふぅーん・・・」と、大雑把に髪をタオルで拭く。
「実頼、ちょっとオレはコイツと話があるから、その間に風呂でも沸かしといてくれ。」
 実頼は「はい」と、風呂場の方へ走っていった。

 とりあえずオレは自室で着替え(流石に濡れた服着たままだと風邪引くし)、リビングの方で緑茶と茶菓子を用意した。捺谷木も、風邪引いたら迷惑なのでオレの服を貸した(背丈に物凄い差があるので小さい頃の死蔵被服を)。
「とりあえず、服を貸して下さって有難う御座います。」
 「別に」と、茶を含みながら返す。
「で、頼みって何だ?」
 紅葉饅頭をかじりながらオレは本題に戻った。
「・・・笑ったり、しませんよね?」
 何話す気だ?

「んーと・・・、つまり話を整理すると?1・お前・・・捺谷木斎は天界って所から来た天界人で、次の神になれる可能性を秘めた百人、神候補の内の一人。」
 何処から出したか判らない小型のホワイトボードで図みたいなものを描いていく。捺谷木は頷く。
「2・下界・・・もとい人間界(ココ)の12〜15歳の男女、と言うか中学生一人に一つ能力を与え、戦わせ、優勝した奴の担当が次の神になれる。」
 オレは呆けて紅葉饅頭銜えながら話を聞く。
「3・優勝した中学生にはもれなく好きな才(才能)を一つ貰える権利“空白の才”を手に入れる事が出来、大半の奴はそれ目当てで醜い争いを繰り広げる・・・か、」
「・・・一つ聞いていいかな?」
 とうとう我慢出来なくてオレはホワイトボードにメモしている茶髪金目のピアス男に指を指す。
「何で此処にいるんだよ、火礼(フオリー)!!」
 紅火礼(ホンフオリー)。私立小倉学園中等部三年、または生徒会会計兼運動部指揮官。さっき言った「上の階にいる上海での幼馴染」だ。
 コイツは少し訳あって日本に移住している。「訳」と言うのは、・・・此処で語る必要ないな。多分作者が小説で書くだろうし。
「で、能力者としてウチの弟分に頼みたい、と」
 火礼は即座にスルーした。
「オレとしては、別に良いけど・・・それは本人が決める事だしな。どうする?信」
 そう言うと黄金色の瞳をオレに向けた。
 ・・・才能かー・・・
「やる。」
「んじゃコイツに能力を与えてくれ。」
 いや、欲しい能力は決まってる。
「大体決めてるから、大丈夫。て言うか理由聞かれたくないから火礼は真の部屋で本でも読んでろ。」
 と、半強制的に閉じ込めた。
「で、どう言う能力がお望みですか?」
「自分を何かに・・・出来ればちゃんとした生き物系でお願いしたいんだけど」
 「フム・・・ではこの自分を龍に変える能力で、宜しいですか?」と問われると、オレは頷いた。
 返事を聞くと奴はオレの前に手をかざし、小さな光を見せた。光が消えると、「能力を与えました」と笑顔で言った。
「・・・で、理由の方聞いていいですか?“理由聞かれたくないから”と言ってましたが」
 ・・・あー、来たかぁ・・・・・・
 そう考えながら右頬を掻く。
「・・・笑わないよ、な・・・?」
「内容によっては。」
 少し頭を抱える。
「オレはな、中学上がるまでは上海にいたんだよ。」

 あの時もこんな雨。土砂降り。
 何でもオレは世間で言う所の「霊媒体質」らしく、しょっちゅう周りには霊がいた。
 11のある雨の日。オレは霊に襲われた。亡霊・・・あっちでは「鬼(グォイ)」って言うけれど、その中でも特に負の未練が溜まった怨霊らしくて、ソイツの所為で、・・・いや、オレの所為で親父は今も意識を戻さない重体になってしまった。
 その怨霊を退治したのが、その・・・笑うなよ?引くなよ?狼男と化した火礼だったんだ。

 何でもアイツの爺ちゃんが日本の社に祀られている狼らしくて、奴は少ないけれどその力を受け継いでいたんだ。
 その姿を、奴を倒したアイツの姿を・・・

「格好いいな、って、思ったんだ・・・」
 扉越しで奴が聞いているとは知らずに、オレは続ける。
「だから、少しでも奴に近付きたくて、その恩を返したくて、そう言った能力を望んだんだ。」
「・・・そうなんですか・・・」
 捺谷木はお茶を飲み干したらしく、受け皿に湯飲みを戻す。
「いい話でした」
 そう返されると、オレも、盗み聞きしていた火礼も、少し照れくさそうに笑った。

 それで少しでも恩を返せたかは、判らないが、
 少しだけ和らいだと、オレは思う・・・。

  終わり