出会いは唐突
「其処のお嬢さん」
 彼女の言葉に反応しなければ、
「君、バトルに出る気はありませんか?」
 彼に出会う事なんて、なかったのだろう。

  第十六.五話? 湯木邑鼎(ゆきむらかなえ)独壇場物語

「鼎、今夜暇?」
 喫茶店で相席になった女性は、私の担当神候補・カルキ。いつものようにボーイッシュなズボンスタイルで私に会う。
「暇だけど、どうしたの?」
「その前に、俊足閃光って連中、知ってる?」
 俊足閃光。
 最近能力者の間で噂になってる四人、その攻撃が素早くて、一瞬で気絶させられた者もいることから、そう綽名付けられている。
「今夜辺り、西神山(にしかみやま)の住宅街付近をその内の一人が通ると見えた。」
 彼女は半日ぐらいなら予見が出来るらしい。その可能性は十中八九。
 そして、次の言葉は、私でも予想できる。
「ソイツを、気絶させよう。優勝候補と影で称される俊足閃光を倒せば、貴方の名前も鰻上りよ。」
 そう言って奴は私に写真を見せる。と言っても、彼女はカメラの腕に関しては最悪だから、顔なんてほとんどわからない。
 ・・・まぁ、
「良いわ、私の能力は最強だもの。それに、これもあるし、ね・・・?」

 私は2歳の時、親の手によって人間界に落とされた天界人の一人。
 親は流行り病に亡くなったらしいけど、代わりに従姉妹のカルキが神候補になって、私を迎えに来てくれた。
 俊足閃光?一瞬で倒される?問題ないわ。
 私の能力、「空気を武器に変える能力」は、限定条件「雲量が3以上でないと使えない」さえバレなければ、最強だもの!!
 それに私には九つまでの神器があるもの。
 負ける気がしないわ。

 花鳥風月で空に上がり屋根に上った。
 急ぎ足で帰路に着こうとする子供が見える。
「あの子ね・・・」
 確か、名前は
 カバヤサクラ
「空気を武器に変える能力、棒手裏剣!」
 奴は容易く私の武器をかわす。へぇ・・・中々出来るみたいね。
「勝負しない?」
 析羅(さくら)は真剣な表情に変わる。その顔・・・勝負を受けると捉えていいのね?
 小柄で背も小さい、一応男かしら。
 こんな奴に負けてたの?ダッサ。
 私なら鉄だけでも勝てるわ!!
「鉄!!」
 惜しい。少し掠っただけね。今度は、外さない。
 でも、
「!!?」
「液体を道具に変える能力、モード・錘」
 血は先が鉄球の棒に変わり、鉄球は私の鳩尾に直撃した。
 数メートル飛び、私のバトルは、ここで終わった。

 再び喫茶店でカルキと相席になった。
「あら、鼎。どうだった?」
「負けちゃった。」
 その一言でカルキはパフェのスプーンを手から滑り落とした。
「でも、収穫はあったわ。」
「収穫?あれ?いつもの制服じゃないわね。」
 私の目は、輝いていたのだろう。
「私・・・彼に恋をしたの!今日から彼の家に住んで、彼の学校に通って、彼の傍にいようと思うの!!!」
 カルキはよく漫画で青ざめる・・・呆れると言った豹変した顔つきになっていた。
「ま、まぁ・・・良いんじゃない?良いわね若いって、青春出来て。」
「うん!まだ華のある10代だもの!!」
 逃げろ析羅、・・・いや、手遅れか。
 あの戦いから彼の生き地獄は、始まっていたのだから・・・。

  終わり