「アレ?析羅(さくら)の奴何処行った?」
 ホテルにいない存在に疑問を抱き、信(まこと)は近くにいた紋火(あやか)に問いかける。
「あぁ、アイツなら少し興奮を冷ましに外へ散歩に行ったぞ?」
 護身用のエアガンをカチャカチャと弄りながら紋火は言う。
「でも大丈夫かねぇ・・・」
(アイツ、方向音痴だから・・・)

「・・・・・・・・・・・・」
 間違いない。
「迷った。」

  第二十七話 よく迷子になる主人公

 何処も彼処も同じ様に見えて仕方がない。
 湯木邑(ゆきむら)に案内を頼もうと思った事もあったが「12年も昔の風景を覚えている訳がないだろう」、「根本として二人で行動するのが嫌だ」と言う所もあったので避けた。
 結果、迷った。
「犬みたいに帰巣本能がある訳がないし・・・どうするか」
「析羅?」
 聞き慣れた声がする。声がした方向を見ると担当神候補(そして姉)の真久利(まくり)がいた。
「何やってんのこんな所で?」
「単刀直入に言うと迷子になった、だな。」
 ハッキリ物申すと真久利はクス、と笑った。羞恥心かどうかは不明だが、俺の顔は赤くなる。
「な、何だよ・・・現代中学生が道に迷って悪いかよぅ・・・・・・」
「いや、何か意外過ぎて・・・」
 其処まで俺は「土地勘が良い」と思われていたのか!?自慢じゃないが俺は今までで一度も地図を見ずに案内もなしに遠出して帰って来た例がない!!!
「本当に自慢じゃないわよソレ」
 人の心を読みやがった(お前だって同じ事出来るくせに)!?
 真久利は目を閉じてしばらく考えると俺にこう言った。
「ねぇ、暇なら一緒に寄りたい所があるんだけど・・・」
「? ・・・おぅ・・・」

 着いた所には一軒家があった。
 レンガ造りの煙突屋根が目立つ一軒家。
「何処だ此処は・・・?」
「私の家よ。」
 え?てコトは・・・
「・・・貴方も住むはずだった、我が家よ。」
 冷たく、かつ寂しそうに真久利は俺に告げた。

「ただいま。」
 木製の扉を開けると穏やかそうな老婆が笑顔で迎える。
「あら、真久利!帰って来てたの!?」
「うん。三次・四次選考は天界でやる事になったから。」
 此処が実家・・・
 キョロキョロと辺りを見渡すと真久利は俺の襟を引っ張り、近くに寄せる。
「紹介するね、この子が私の担当中学生の神剣析羅(かばやさくら)って言うの。」
「よ、宜しくお願いします・・・」
 流石にいきなり「自分が14年前捨てられた息子です」なんて言えないから挨拶だけにした。
「ところで帰りの道中にお父さん見なかった?散歩から帰って来てないのよ。」
「えぇー、何処かで寝てんじゃないの?」
 母(と思われる老婆)と真久利が話している最中、ふと視線を感じて後ろを振り向くと木の陰に隠れている翁がいた。
 しばらくその翁を睨む様に見詰めてから俺は問うた。
「・・・アレ、か?」
「「うん、アレ」」
 二人は同時に頷いた。

 夕食は3人と一緒に摂る事にし、しばらく家にいると真久利が「ホテルまで送っていくね」と、街を歩く。
 今生再び来る事のないであろう我が家を、後にして・・・
「明日は貴方達にとって最後の三次選考ね。」
「あぁ、しかも相手は植木チーム!五段の君を戦える好機、コレを逃したら相当な実力者に合間見えるのは何時になる事か・・・!」
「・・・そうね・・・・・・」
 名残惜しそうに、真久利は言う。
 そうか、三次選考を落選してしまえば、奴と会う事もままならなくなるのか・・・。
 辛い、だろうな・・・
「安心しろ真久利!」
 もう数日共にいれるよう
「俊足閃光(俺達)は負けない!四次選考までしがみ付いてでも生き残ってやる!!」
 俺は頑張ろう。
「・・・えぇ、」
 ソレを聞くと真久利は次第に笑顔を取り戻す。
「頑張ってね、析羅。」
 そして「嬉し泣き」として彼女の頬には一筋の涙が伝わった。

  トゥービーコンティニュー・・・