三次選考・植木チームと対峙し圧勝、四次選考進出が決定。
 午後に行われた植木チーム対バロウチームの戦いも、植木がレベル2になり勝利を収める。三次選考を突破したのは全員天界人のバロウチーム、個性溢れる植木チーム、そして、
 全員レベル2の能力者こと俺達・俊足閃光チームだった。

  第三十二話 最後の夜

 次の日はいよいよ四次選考、当バトル最後の日となった。
 にも係わらず、一人ホテルリビングの片隅で意気消沈としていた奴がいた。
 暁中生徒会元書記現会計のこの男・澄飼信(すみかいまこと)、自分を龍に変える能力者(レベル2は破壊光線に追尾能力を加える)。
 そんな男が片隅の影で嗚咽を上げて泣いている。
「・・・信ー、何時までもそんな所でクヨクヨクヨクヨ男らしくないぞー?オレ等まで暗くなっちまう」
 肩を指で突きながら紋火(あやか)が慰みに来る。
「いーよな試合に出れた奴等は余裕でー、オレなんて殆んど出番がないから試合で存在を読者様に確認してもらおうと思ったのに最後の試合は析羅(さくら)が持っていくし、援護の許可もらえたけどあの野郎マジギレしやがったからオレの出る幕がなくなったし、能力なんて他の奴等と比べれば役に立たないしよー、レベル2に至ってはもうナレーションで説明してるしあまり目立った能力じゃないしな、どうせオレは霊が見える、聞こえる、触れる、喋れるの霊媒体質が取り柄の日系中国人ですよーだ。」
 そんな風に周りのオーラみたいなものを黒く染め、ブツブツと小声で愚痴り続ける。
「いや、それはオレだけじゃなくて析羅もそうだな、結局オレはクライナー・ミュンスターレンダー並のマイナーな奴なんだな・・・」
 オーラはより一層黒々しくなり、最早彼の哀愁漂う背中も半分ぐらいしか見えなくなった。
 流石にいかんなと思い、その場にいた紋火、水寿(みすず)、彪音(あやね)はテーブルを中央に緊急会議を始めた。
「・・・どうするよ?このまま四次選考へ行ってもコイツ大して動けないと思うぞ?」
「己のテンションで善し悪しがつく単純な輩だからな、この辺りでテンションを戻していかないと優勝もままならん。」
「そうだっ」
 何かを思いついたのか彪音は紙人形を出す。
「信って犬好きだよね?」
「そうだな、って、まさか・・・」
「紙人形を、影分身に変える能力!!」
 紋火の予感は的中。目の前には幾種類もの犬が舌を出して現れた。無論、感触は普通の犬そのものである。
「さぁ、信!こいつ等に囲まれて癒されな!!」
 そう切り出す前に絶叫が一つ、声の主はこのチームの最年長・紋火である。
 壁まで寄り掛かり、蕁麻疹を出しながら紋火は怒声を彪音に言い渡す。
「莫迦野郎!いきなり出すなぁ!!お前アレルギーの奴がいるの知ってるよな!?」
「知ってるよ。どんな感じになるのかやってみたかったの。」
「やってみるな!!!」
 実はこの男・天性の犬アレルギーなのである。
「・・・そう言えば、析羅の奴はどうした?」
「あぁ、アイツなら近くを散歩するってさ、自分の故郷だった所を、もう少し見ておきたいんだって。」
 ふと問う水寿に哀れみを込めた顔で彪音は答えた。
 その後「皆オレの心配はしないんだね・・・」と、信は犬に囲まれながらも暗いオーラが消えなかった。

「この土地に留まれるのも、あと一日か・・・」
 街灯の下で、熱い缶の中にあるお茶を口に含みながら、星が瞬く空を仰ぐ。
「もう四次選考か・・・・・・」
 思えば長かったな、
 門前で行き倒れた状況で会う事になった真久利(まくり)、共に行動を共にする事がほとんど無かった知人達、唐突の襲撃、不利な状況、三次選考、植木達との戦いは・・・あまり記憶にない。
 ありとあらゆる全ての物事が鮮明に残っている。
 ・・・ある意味今まで出一番充実した時かもしれない。
「優勝しても、しなくても」
 アイツといれるのも、あと一日だけか・・・・・・・・・。
「君が神剣(かばや)君?」
 感傷に浸っている最中、人影が俺を覆った。髪の色、瞳の色、見覚えはある。
 が、気配はまるで違う。
「久し振り、かな?」
「・・・誰だ貴様は」
 目を鋭くさせ、相手の顔を見上げる。
「やだなぁ、ボクだよボク・ロベルト・ハイドン・・・」
「違うな、気配からして違うし、外観に至っては別人そのものだ。それに騙される能力者も、能力者だがな・・・」
 面白そうに見るソイツの気配はとても腹ただしい。
 自分の弱さが容易に理解出来てしまうから。
「流石は君だ。簡単にバレちゃったね。初めまして、ボクはアノン。地獄人アノンだ。」
「地獄、人・・・!?」
 無意識の内に構えを取る。
「あぁ、待って。戦うつもりはないんだよ、神剣君。」
「は・・・?」
 相手は両手を挙げ、戦意が無い事を証明する。それを見ると、俺も先頭の構えをとく。
「ちょっと言いたい事があってね、」
「言いたい、事・・・?」
 警戒しながら俺は問う。が、ソイツは声に出さず口だけで言葉を語る。
「・・・どう言う事だ?」
「じきに解るよ」
 そう言って奴は街灯の明かりから離れ、何処かへ言った。

 ・・・「オ姉サントノ別レハ、スグソコダヨ」・・・
 奴の快刀乱麻で神が致命傷を受け、四次選考の予定を変更したのは、
 それから10分も立たなかった。

  トゥービーコンティニュー・・・