とりあえず信(まこと)、彪音(あやね)の二人は近くにいたバン達の治療に専念した。
「アイツ何者だ?威風堂々には“忍耐”、快刀乱麻には“不惑”、唯我独尊には“渾身”等・・・様々な条件があるのに、アイツはどんどんレベルが上がっていく。」
「あー・・・そりゃ無理もないわ。」
 呆れたように彪音(あやね)はバンの額にクルクルと包帯を巻く。
「そんな事なら、アイツ子供の頃からやってるし。」
 苦笑いしながらそう言う。
「アイツ道場の子供だからね、幼い頃から嫌と言うほどに武術の鍛錬を施されて育ってったんだよ。でもアイツ逆にそれが楽しくてさ、毎日飽きずに練習練習。子供とは到底思えないよアレは。」
 額の包帯を巻き終えると顔に付いてる血をタオルで拭う。
「でも・・・練習してる時、アイツったら凄く楽しそうに笑うんだよね、アタイも、そう言う所が気に入ったのかね・・・」
(弟みたいな感じで)
 バンは心なしか頬を少し高潮させる。
「ねー さっきから思ったんだけど・・・」
 「ハイ腕出してー」と声をかけ、右腕に包帯を巻き始める。
「やっぱりそのヘチマって水ぶっかけると下に下りるの?」
「!?」

 二人が会話をしている中でも二人の攻防は続く。
「さぁ・・・君はどの神器まで出せるんだい?見せてよ、君の本気を!!」
 アノンは楽しそうに、求めるかのように俺に言った。

  第三十七話 殺陣

「・・・どの神器までって・・・」
 少し足を止め俺は口を開く。
「どの神器も唐突に現れてるんだから、解る訳無いだろう?」
「ぶっつけ本番だったの?全部?」
「イエス、オフコース(はい、もちろんです)。」
 そう言うとアノンは半分呆れ、もう半分は侮蔑を感じる目を俺に向ける。こっちだって好きでそうしている訳じゃないっつの。
「まぁいいや、続けよう。そして、君の本気を見せてもらう!!」
 再び楽しそうに、かつ求めるかのように、奴は俺に本気を出させようとした。

「・・・アノンを見つけたは良いけどよー・・・」
 一方何処かの段差の影、俊足閃光三年組。赤杜紋火(せきもりあやか)と縹水寿(はなだみすず)。
 二手に分かれて挟み撃ちといこうと思ったが、
「手、出せねーな・・・」
 流石の紋火も立ち入る隙を確認出来ない速さで二人の攻防が繰り広げられる。
 紋火には「相手の十秒間を相手の一秒間に変える能力」、「相手の身体能力を四分の一にする」レベル2が備わっているが、限定条件「使っている間は相手の攻撃を受けてはならない」の所為で間に入りかつ攻撃は一切受けない隙を探しているのだが、何処にも見当たらず、途方に暮れているのである。
「どうするよ?一番オレの能力が有効そうだけど、隙が・・・」
「そうだな」
 口元に指を置き水寿は考える。一応このチームの智将は彼の務めでもある(まぁ大半は自分の事は自分でやる輩だからその役目は必要ないかもしれないが)。
 再び口を開き紡いだ言葉は
「ほっとくか」
「そうそうほっとく・・・えぇ!?」
 その発言につい妙なノリツッコミ(?)をかましてしまった。
「お前後輩を見殺しにする気か!?」
「見殺すと入ってない、隙をうかがうのだ。あんな中混ざっても一発で気絶するのがオチ。ならば相手の疲労を蓄積させた所で首を取る方が賢かろう。」
 「それ卑怯じゃないか?」と言いたそうだが、紋火には彼を説き伏せる自信もないし、アノンの怪物振りを見ればその案を無理矢理にでも頭の中で納得するしかない。
「それに・・・アイツはこんな事でヘバる様な奴でもないしな。」
 同じ部活に所属しているからか、ただの勘かは判らないが、水寿は自信ありげにそう言った。

 が、当の析羅(さくら)は
「気分悪・・・」
 滅茶苦茶な位疲労が溜まっていました。
(アイツ等は近くの奴の治療に専念してもらっているし、協力は仰げないと思って良い。だが、流石に一人でコイツの相手をするには、体の方が、もう 限界・・・)
「もうそこまで?んじゃもういいや、死んで?」
 ここまでか・・・
 その刹那、アイツの顔が頭に浮かんだ。
「すまんな、真久利(まくり)・・・」
 止めをさされそうな瞬間、
「やはり“B”の階段で正解だったな。」
 その一言で奴の手刀はピタリと止まる。
 声の先には二つの影がある。
「予定通りだよ。」
 キルノートンと五段の君改め森あいの眼鏡コンビがいた。
 聞くに森の能力でキルノートンを連れて来たらしい。
 とりあえず応急処置を済ませたバンとディエゴスターが歓喜の声を上げる。
「いくぞ!!バン、キルノートン!!」
「おう!!!“無敵の合体”―・・・」
 砲弾が直撃したような音が同時にする。
「神・・・器・・・」
 アノンの鉄がキルノートンに見事直撃した。
「・・・・・・・・・・・・無理。」
(((((((((速攻死んだっ!!!))))))))
 その場にいた計8名が心の中で叫んでいた。
 希望の星は、たった数秒で脆く儚く砕け散ったのである・・・。

  トゥービーコンティニュー・・