時は始まり終わりを告げる。
 その時俺は戦えない己を恨んでいた。
 この体が動けば、この腕が動けば、この足が動けば・・・
 ・・・いや、仮に動けたとしても、
 ただの足手まといにしかならないだろう。

  最終話 終わりを告げる風

 四次選考にも終止符が打たれた。
 俺たちは何とか天界の医療で息を吹き戻した。
 結果はアノンルールに則り植木チームの勝利。空白の才は植木に渡った。
「良いのか水寿(みすず)?」
 一番空白の才を欲していた奴に俺は問う。
「別に、優勝者からのお零れはいらん。それに、才能なんて無かろうが、借金返済は出来るしな。」
 水寿は幾つものバイトを掛け持ちして借金の返済を試みるらしい。「進路は就職一本線か?」と問うた所、将来の為にも一応高校は行くみたいだ。
「んじゃぁ振り出しだな。何年かかるのかねー全額返済。」
 紋火(あやか)は生徒会を引退したら受験の方に集中するらしい。極道に関しては「後を継ぐ気はさらさらない」との事。
「まぁ頑張れよ、俺には応援しか出来ないけどさ。」
 信(まこと)は受験を捨て知り合いのツテを片っ端から利用して夢へと突き進むつもりでいるらしい。「ツテ」は上海で生活していた頃の知人をあたるようだ。
 彪音(あやね)はエスカレーター校に通っているので高校受験はない。なので有意義で気楽に日々を過ごす事にしているそうだ。
 湯木邑(ゆきむら)については父親が痺れを切らして門下生を辞めさせて実家へ連れ戻したみたいだ。でも学校は相も変わらず暁中へ通うらしい。大事な金ヅルを手放した所為で生活は苦しいのに戻り俺はバイトを増やす羽目に。

:人間界行きの便が出ます・・・:
 この土地とももうお別れか・・・。
「析羅(さくら)!」
 背後から声がした。
 聞きなれた女の声、
 振り向くと息を切らし手を膝に置く真久利(まくり)の姿があった。
 最後に見る実の姉の姿。
「とうとう、お別れだな」
 いつもの無愛想とは違いはにかみながら俺は言う。
「・・・そうね」
 目元に涙を滲ませて返事をする。少し小さな溜息をし、俺は真久利にアレを見せた。
 彼女の首に下がっている物と同じ拵えの、蒼い首飾り。
「別れと言っても、今生ではないだろう?会いたい時に会えばそれで良い。違うか?」
 首飾りを見せると彼女の頬に涙が伝わり、俺を腕の中に引き寄せた。
 彼女は最後に一言、
「ありがとう・・・」と。

「ったく、格好つけやがって。」
 蒼伊(あおい)は熱いお茶を口に含み独り言を呟く。
「析羅兄様は蒼伊兄様や父様、祖父様を見かねて一人大人になろうと背伸びしてきたんですから、しょうがないですよ」
 弟・志爛(しらん)は蒼伊の独り言に返答する。
「素直じゃないんだよなー、独りにならないと泣けないのも、また辛いものだよな。」
 部屋で独り俺は声を殺して涙を流している。

 そして数週間後・・・
 いつも通りの道を進み、いつも通り家に帰る。
 でも何か物足りない。
(前の方が充実していたような気がする・・・)
 いつも通り門を通ろうとすると人影を見る。
 栗色のロングヘアーで、見覚えのある女性の姿・・・。
「・・・な・・・・・・っ」
「久し振りね、析羅」
 物語はまた、動き出す・・・。

  終わり