光が消えると、二人は容易く膝を付いて前へ倒れ込んだ。
 それと同時に、燕(つばめ)の口元は綻んだ。
「ゆっくりとお眠りなさいまし、俊足閃光のお二人様」

  番外編 京都時代劇村能力者(後編)

「よりにもよって、アイツと当たる事になるとは思ってなかったね。」
 近くの茶店で団子とお茶を頬張る二人の担当神候補・如月(きさらぎ)と斎(いつき)。
「魁燕(さきがけつばめ)、京都では“現実の獏”の名で知られている能力者。獏と言う呼称の通り彼女の能力は夢に係わる。」
「精神的なものか、彼等には一番辛い戦いになりそうだな。」
 真剣な面付きでお茶を啜る。

「頑張れよ、二人とも・・・!!」

「・・・ん?」
 二人は見た事もない景色で目を覚ます。
 雄大な空、無限に広がる草原、のどか極まりない空間に二人はねっころがっていたのだ。
「お気づきどすか?お二人様」
「「!?」」
 起き上がると洋装の燕が草原の中央に立っていた。
「ようこそ、私の夢の城へ」
「夢の、城・・・?」
 奇妙な単語だなと思いながら紋火(あやか)は返す。
「此処はどんな願いも叶う空間。私の能力・写真を被写体の夢に変える能力で作り上げた世界どす。能力者の大半はこの能力の虜になり、バトルをやめた。最近ではレベル2になり夢の操作も可能になったのでやりたい放題、彼等の望むままの世界を作り上げるのです。」
 両手を広げて自慢するかのように燕は言う。瞳はこれ以上ないほどに輝いていた。
「さぁ、貴方方の願いを言いなされ、此処は夢の世界、どんなに不可能な事も可能にしますえ?」
 妖艶な笑みを浮かべ、彼女は彼等の方向に右手を差し出す。
「さぁ・・・貴方方の願いは何どすか?」
 二人は俯く。
「俺は、」
「オレは・・・」

「彼女の能力、写真を被写体の夢に変える能力はある意味無敵だ。言うなれば其処は自分のやりたい事を叶える空間、大半の能力者は夢の虜になり、戦意を喪失させてきた。」
 羊羹を少しかじりながら如月は続ける。
「彼等は叶えられない願いを長年抱き続けた子達だ。虜になってしまうのも、時間の問題だな・・・」
「それはどうかな?」
 斎は団子の串を銜えながら返す。その一言に如月は目を丸くする。
「彼等は長い間孤独に縛られて生きてきたんだ、その所為で叶えられる事のない願望はあるけれど、その分アイツ等は強いんだよ。」
 自信満々で斎は串の尖った所を如月の顔に向ける。
「心がね」

「願いなど無い」
「願いなんて無いね。」
 その一言に燕は驚愕する。
「な・・・そんな訳無いどすよねぇ?人間、誰もが報われない願い事があるはずどす!」
「確かに・・・報われないかもしれない」
(あの人が俺に振り向いてくれる筈はない)
(あの人はもう帰ってこない)
「・・・だがな」
 二人はゆっくりと立ち上がる、瞳には、決意の炎が見事に燃え上がっている。
 紅き炎と、蒼き炎。
「オレ達はそれをバネにして、這い上がって生きているんだよ。」
「甘くくどい夢の中に居続けるほど、苦しい者も無いしな」
「!!?」
 空にヒビが入る。草原も少しずつ空間が変わっていった。
「「現実の獏も、あっけないものだな」」
「・・・ッ くぅ・・・!!」

 再び目覚めると時代劇の路地だった。
「・・・目、覚めたみたいだな」
「だな」
 隣には絶望で膝をついている燕がいる。
「気絶しなければ能力は消えない、と言うルールだったな」
「別にバトルしたいって好戦的な方じゃないしなー。」
「「自分の道ぐらい自分で決めてくれ(決めろ)。」」

 その後は何事もなく、俺達の修学旅行は終わった。

 暁中学校
「おかえりー、二人とも」
「どうだった京都は?」
 生徒会室にはいつもの二人が暇潰しに双六をしていた。
「能力者に襲われたり鹿の襲撃に遭ったりと散々だったよ」
「待て、鹿は奈良だ。」
 それで二人のお楽しみ御土産配布の時間が来た。
「お前等には何にしようか考えた結果」
「実用的な物が一番いいのだが」
 そう析羅(さくら)が言うと二人の手元に小さい袋が置かれた。
 中身は小さい置物。
「開運のお守りになりました。」
「「・・・・・・」」
「俺からは饅頭」
((甘い物が苦手な俺達に対しての嫌がらせか・・・?))
 何はともあれ二人の修学旅行は終わり、再びバトルの渦に入るのである。

  終わり