(……ねむい……)

とある夏の暑い日…
火野国中学2年B組の教室で、1人の少女−森あいが、必死に睡魔と戦っていた。


−いつもと違う風−


今は下校前のHRである。だが、ついさっき終わった5限目はあいの苦手な数学だったため、もはや体力は残っておらず…眠気だけが頭の中を回っていた。
(もう少し…もう少しだから、がんばるのよ、あい…)
自分で自分を応援してみるが、睡魔は予想以上に手強い。だが、ここを乗り切れば帰れる…そう思っていたときだった。

「…じゃあ、少し長くなるが、今日D組の窓ガラスが割れた件について…」
(うそでしょ〜〜〜〜〜!?)
担任の先生は長話を始めた…話が終わるまでの20分間、あいは自分の腕をつねり続け、何とか起きていられた…


「や、やっと終わった…もう、ダメ…」
すっかり疲れ果てたあいは机に突っ伏した。腕はつねりすぎて赤くなっていた。
「…早く帰ろ…」
このまま寝るわけにもいかないので、さっさと帰ることにした。立ち上がり、カバンをかけ…ふと前を見た。

「………ハァ」
思わずため息をついてしまう。あいの席から斜め前、窓際の席で、緑髪の少年−植木耕助が鼻ちょうちんを膨らまして寝ている。気持ちよさそうに。
「よくあんな綺麗な鼻ちょうちんが作れるわね…って、感心してる場合じゃない!!」
あいは耕助に近づき、耳元で言った。
「植木!起きろ!!」
かなり大きな声だったせいか、耕助の鼻ちょうちんがパチンと割れた。同時に、耕助がゆっくり目を開けて、あくびを1つ。
「ふあ……ああ、森か…何だ?」
1年前の戦い…あれから2人は、毎日一緒に帰っていた。それが普通になってしまったのだ。
「何だじゃないわよ!もうHR終わったんだから、さっさと帰るわよ!!」
ボーッとしている耕助にあいは少々いらつきながら怒鳴る。
「ん、わかった。帰るか」
怒鳴られたことなど気にせず、帰り支度を始める耕助に、あいはもう1度ため息をついた。


「なあ森…」
帰り道で、不意に耕助があいに話しかけた。あいはうとうとしながら歩いていたため、かなり驚いた。
「えっ!あっ何!?植木」
「…大丈夫か?眠そうだな…」
「う…うん、昨日ちょっと遅くまで本読んでて…」
あいは言いながらもあくびをした。
「そっか、じゃあ今日はやめとくか?」
「へ?…何を?」
「昨日約束しただろ?一緒に公園掃除するって。でも森はきつそうだし、俺1人でやろうか?」

昨日…確かに約束した。耕助1人でこの暑い中では大変だから。しかし、今は自分が倒れそうだ。
それでもあいは、耕助との約束を守りたかった。

「私もやるわよ、掃除」
「え…でも、眠いんじゃ」
「大丈夫よ、平気平気。あんた1人じゃ心配だしね」
「そうか?なら早めに終わらして帰るか」
その時ちょうど公園前に着いた。あいは耕助に付いて公園に入っていった。


「…やっぱきつい…」
30分ほどで掃除は終わったが、あいは暑さと眠気でベンチから動けそうになかった。
「お疲れさん。大丈夫か?森」
そう言いながら、耕助はタオルであいの汗を拭いてやった。
「あ、ありがと…」
少々顔を赤くしながら、あいが礼を言う。
「ちょっと待ってろ、飲み物買ってくるから」
「うん…ごめんね植木、世話かけちゃって」
気にすんな、と耕助は笑顔で言うと、自動販売機のある所まで走っていった。

「うう…ダメだ、眠い…」
あいは必死に眠気をこらえていたが、ベンチが木陰にあることも加わり、眠くて仕方がなかった。
(せめて、植木が帰ってくるまで起きてないと…)
そう思いながらも、あいはついに睡魔に負けた…


(…何だろ…あったかい…)
次に気がついたとき、あいは誰かが手を握っている感じがした。
そっと目を開けると…
「おう、起きたか」
その声にびっくりして横を見ると、植木の笑顔があった。
「う、植木!?え、私寝て…た!?」
「ああ、戻ってきたら寝てた。起こすのも悪いと思ってさ」
あいは状況を完全には飲み込めていなかった。いつの間に寝ていたのだろうか、しかも…耕助によりかかって寝ていたようだということがわかり、あいの顔が真っ赤になった。

「ジュースぬるくなっちまったな…また後で買うか」
耕助はのんきなことを言っているが、あいは恥ずかしさでうろたえていた。
その時…あいは、耕助が自分の手を握っていることに気付いた。
「…う…植木…///」
「ん?どした?」
「あの…手、何で…?」
「ああ、別に…たださ、寝てるときに手握っててもらうと、なんか安心しねーか?」
平然と言う耕助に、あいは内心あきれた。小さい子どもじゃあるまいし…それでも、何だか嬉しかった。

「…もう少し…手繋いでてくれる?」
何となく言ってしまった言葉に、あいは驚いた。
(な、何変なこと言ってんの私!?)
耕助は案の定、少し驚いた様子であいの方を見ている。あいは恥ずかしさで下を向いてしまった。


「…良いのか?繋いでても」

「…え?」
あいが耕助の顔を見ると、耕助は少し照れくさそうに笑っていた。
「…俺もな、もう少し…森とこうしてたかったんだ」
そう言うと、耕助はもう少し強く、優しくあいの手を握った。
「!!うえ、き…///」
あいは体温が一気に上がった気がした。
「…まだ4時くらいだし…もうちょっとここにいるか、一緒に」
「………うん」
小さな声で返事をして、あいはそっと耕助の肩に頭を傾ける。
(…こんなこと出来たんだ…私)
自分から植木に寄りかかるなんて…あいは何だか変な感じがした。植木も変に思っていないだろうか。そう思い少し不安になる。
そのとき、あいの肩に耕助の手が置かれた。肩を抱かれたのは初めてだったが、不思議と恥ずかしさよりも、嬉しさの方が大きかった。

「何か今日の森、積極的だな」
「そ…そう?でも植木もじゃない///」
耕助は笑顔で「そうかもな」と答えたが、その頬は少し赤かった。
(きっと…植木も今、私と同じ気持ちなんだな…)
そう考えると幸せだった。もう少し、このままでいたい。

「でも、可愛かったな、森の寝顔」
「な…何言ってんのよバカ!!」
あいの拳が耕助の頭に直撃した。
「痛えな、殴ること無えだろ…」
「あんたが変なこと言うからでしょ!」
そんなやりとりをした後、2人は同時に吹き出した。結局最後は笑顔になってしまうのだ。
急に耕助が、あいを抱きしめた。
「えっちょっ…植木!?」
「森v」
「は、離してよお!!///」
「やだ。殴ったお返し。それに…今までは恥ずかしくて出来なかったから」
「………バカ植木ぃ………」
そう言いながらも、あいは抱き返した。今日1日で距離が縮まった気がする。いつの間にか、眠気も消えてしまったようだ。
2人の想いが全てお互いに伝わるのは時間の問題のようである。


いつもと同じような、しかしいつもより優しい風が吹く公園の中のベンチで、2人の中学生が仲良く手を繋ぎ、眠っていたそうだ………


   あとがき

 hiraです。2作めは植森甘々(?)を書いてみたんですが…
 キャラが違います、特に植木。こんな植木いやだ。
 1作めが語りだったんで何とかしっかりしたものを!と思ったのに、撃沈しています(泣
 それでは、乱文失礼致しました。