ミィンミィンとせわしく蝉の声が響き渡る午後。
涼しげな服に身を包んだ2人の少女は木陰のベンチで休息を取っていた。
「・・・鈴子ちゃん、アイツ等が来たらミゾオチに拳を投げ込んでも良いかしら・・・」
「あっ愛ちゃんそれはいけませんわ!!きっと道が混んでいますのよ・・・ぅん、きっとそうですわ」
一方の頭に眼鏡をかけた少女、『森愛』はもはや握り拳をカタカタと微妙に上下させている。もう一方の上品な少女『鈴子』は横に座っている森をなんとかなだめながらも、待ち合わせ時間を30分もオーバーしている少年二人の姿を頭の中に思い浮かべた。
(あぁ、どうしましょう・・・この状態で植木くんが現れたらきっと愛ちゃんのミラクルな鉄拳が植木くんのミゾオチにクリーンヒット・・・もはやその時、私には止める事なんて不可能に近いことですわ)
額に冷や汗を浮かべつつ、横で握り拳を作ったりやめたり、を繰り返している友人をアワアワと見つつ、未来におけての対策を考える鈴子。(が、事件現場になることしか頭に浮かばず五分後に無念のリタイア)
「植木ー・・・佐野ー・・・うら若き乙女をこんなクッソ暑い所に35分12秒(断続中)待たせるなんてイイ度胸してんじゃないの・・・!!!」
「・・・ぁぁぁ」
(もぅ駄目!無理です植木くんッそして佐野くん!!鈴子は貴方方を救うことはできません・・・おとなしく、目の前で繰り広げられる●曜サスペンス劇場を見守ることにします・・・ッ)
恐らく、いや、確実にこの2人の周りからは異様な空気が流れ、無意識に周りの通行人は2人から距離をとって通行している。そして、その通行人の山の中から派手な緑色のツンツン頭の少年と、黒髪の和服少年二人が息を切らせ、異様な空気の漂う木陰のベンチの近くへ走り出、勢い良くブレーキをかけた。
「ッご、ゴメン森!!やー、佐野と合流して色々選んでたら遅くなっちまってゴファッ・・・!!!」
頭をかきながら必死に弁解を図ろうとする緑の頭『植木』のミゾオチには、森の鉄拳より一足早く和服少年『佐野』のひじ鉄がクリーンヒットしていた。思わず植木は前に倒れこみ、外から見た風景的に、森に土下座をしているような、哀れな体勢になった。
「イャァー!!ホンマごめんなぁ、思いのほか人が多くてな、しかも道に迷ってしもうてー・・・エッ!?何やその殺意のこもった瞳はッ」
ヒィッと森の眉間にシワ寄りまくりの顔を見て、佐野は思わず恐怖を覚えてしまった。
「悪かったわね。ブッサイクな顔で。こちとらこの暑い中を女の子2人で君たちのために待っていたわけだよ。この中を待っている間に変な怪しい男に声かけられるわいらん体力を使うはって、大変だったんだからね!!」
人差し指を真直ぐに伸ばして植木と佐野に熱弁をかます森を、鈴子はまぁまぁと苦笑しながらなだめていた。
しかし、その様子をボーゼンと見ながら植木と佐野は、森の説教の一部を、恋する少年二人は聞き逃さなかった。
「「変な怪しい男??」」
「?何よ、そうよ。どっか涼しいとこ行こうよ、なんてなれなれしいからあたしと鈴子ちゃんでなんとか追い払ったんだから『えぇぇぇぇええ!!?森、大丈夫か?!変なことされなかったか?!あーッだからそんな露出の激しい服は俺の前以外では(重要)着ちゃ駄目だってこの前言ったじゃん!!』
『鈴子!鈴子は!!?手ぇとか握られたりしてないか!?尻とか無防備に触られたりしてないか!!??(重要)ごめんなぁ!俺等がもっと早う来んからそないなことになっとったんやなー!!あーっ先に買いに行こうとか植木が言うからやなぁ!』
「なっ?!俺のせいかよ、だいたいお前だって『えぇな、ほな行こかー』とか結局俺の意見に賛成してたじゃんか」
「・・・買う?」
「何を、ですの・・・?愛ちゃん」
「え、あたしに聞かれても;;ちょっと、植木ー・・・」
恋する少年(以下略)はそれぞれの想い人の肩をしっかりと抱きつつ、ついには言い争いを始めた。もっとも、2人の少女には全く意味の分からない話のことで。
『俺のせいにするつもりか!!』
『俺のせいでもねぇよ!!』
「このっあんた等はぁッ」
『もぅ、およしなさい2人とも!!小さい子供のけんかですか!
植木くんのせいでも、佐野君のせいでも有りません!!!いい加減にしなさい!!』
ゼェハァと息を切らしながら普段声を荒げることの少ない鈴子は、眉間にシワをよせ2人の少年の顔をジッと睨んだ。
「「・・・す、すみません・・・」」
結果:効果絶大
「・・・そ、それで、何の話をしてんの?何かを買いに・・・とかなんとか」
「そうですわ。一体なんの話ですの?遅れたことに関係することではないんですの?」
「「そ、れは・・・」」
ギクッと植木と佐野の2人は身じろぎをし、顔を見合った。
(・・・佐野、お前先渡せよ)
(ハァーッ!!?何言うてんねやお前!なんで俺が先発なんやッ)
(お前等のが付き合うの先だったじゃねーか)
(だからってそれが理由なんか!)
(まぁまぁ、一発いっちゃって下さいよセーンパイ☆)
(・・・キモッ・・・・お前何キャラやねん)
ゴショゴショと恋する少年(以下略)の小声恋★愛秘密会議を一方的に終了すると、佐野は変なため息+咳払いをして、鈴子の前に向き直った。
「佐野君・・・?」
「ッあのー、遅れたんはホンマにごめん。ちょっとな!ちょっとー・・・選ぶのに手間取っててん・・・」
「選ぶ?何をですの?」
自分を真直ぐに見つめてくる鈴子の視線に耐え切れず、どこか明後日の方向を見て話を進める佐野。その佐野の焦りっぷりを見て、植木を笑いを必死に堪えていた(あまり堪え切れていない)
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2話目に続きます(*^ ^*)