2月14日、バレンタインデー。
 3月14日、ホワイトデー。
 一部の人にとっては、地獄の日々の始まりである。


       ― 地獄の14日 ―


 2月14日、バレンタインデー。暁中の面々編。
「運命の瞬間よ・・・」
 と、緊張を走らせている少女の名は湯木邑鼎(ゆきむらかなえ)、世間で言えば恋する美少女。彼女は告白の為にチョコレートを徹夜で作りこの日を待っていたのである。
「いざっ 2年3組へ、しゅっぱ・・・」
「先輩、チョコ受け取ってください!!」
「析羅(さくら)様、悧瓏(りろう)様ぁーっ!!!」
「私のチョコを・・・」「いえ、私のを・・・」
 突入する前に大群が押し寄せる。先輩後輩同世代、一切問わず此処2年3組に押しかける。
「神剣(かばや)、お客様来てるぞ。いいのか?」
 クラスメートは聞くが本人は「お帰り願う」の一点張り。
(しまった、さくらんとリータンは女子人気の1,2を争う人じゃない!どうすれば・・・)
「何やってるんだお前は。」
 背後から聞きなれた声がする。縹水寿(はなだみすず)が両腕にチョコを抱えてやってきた。恐らく道中で受け取ったのだろう。
 鼎はふと考えた。水寿は析羅と小学校からの付き合い。ならばどうやったらチョコを受け取ってもらえるかも解る筈だ。
 そういう訳で相談。かくかくしかじかうんぬんかんぬん。水寿はニヤリと笑い「秘策ならあるぞ」と閃いた。
 「ハッピーバレンタイン by真久利(まくり)」と書いた紙を箱に挟み、見えるように置く。
 析羅は注目した。そして黙って「受け取っておくか」と、鞄の中に入れた。鼎は喜んで「ワァーイ!」手を挙げる。その所為で秘策は破れノシ付けてチョコを返されたのは言うまでもない。
 その後チョコは紙を挟んだままなので悧瓏が勘違いして喜び、腹を痛めて後日欠席した。

 2月初旬、小倉学園中等部編
 彪音(あやね)は求人情報をジィ〜ッと見つめている。
「何やってんだお前。」と、一学年先輩の火礼(フオリー)が問う。
「求人情報。バイト探してんの。」と、冷たく返された。
「チョコのお返し一人100円にしても2,3万くらいかかるから。今の内に稼いでおかないと・・・!!」
「大変だな女子人気No.1も。」
 他人事のように火礼は言うが、彼の本日のお荷物は七割方チョコである。
「断ればいいじゃないか。オレみたいに」
「そう言いながらアンタの荷物のチョコは?」
「ロッカーの中で大量に詰め込まれていたんだよ。」
 「チョコとネギは苦手なのに・・・」と苦笑しながら言う。
「・・・そう言えば、弟君にはやらんのか?チョコ。」
 ※弟・・・析羅の事。単なる幼馴染なのだが「弟的存在」と言う理由でそう呼ばれている。
「アイツも大量に義理やら本命やら貰ってるからちょっとやそっとのチョコじゃ見向きもしないって。」
「お前のチョコは間違いなくソイツの肝冷やすと思うけどな。」
「・・・殴るよ?」

 2月14日、水寿編
「さぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
 ハリセンで机を叩く音が教室に響く。3年4組の教室からだ。
「美少女美女と称される人からのチョコですよー、欲しい方は、いらっしゃいませんかぁー!?今ならたったの500円だよぉーッさぁ、買った買った。」
「オレ、里見(さとみ)ちゃんのを!」「幸人(ゆきと)ちゃんの、ある?」
「ありますよありますとも!早い者勝ちだよ。男共、勝ち取りなぁー!!!」
 商売の声が教室に響く。
「・・・・・・・・・・・・」
 女子は教室の片隅で売られていく彼の為に作ったチョコを黙って見つめていた。
「縹君、貰ったチョコは即行男子に売り払うことで有名なの、忘れてた?」「忘れてた・・・」

 あらゆる人に地獄を与える14日、今宵は誰に当たるのか・・・。


   終わり