あと一ヶ月、
 あと一ヶ月で全校生徒の大半が楽しみにしている一大行事が始まるのだ。
 市立暁中学校第54回文化祭
 一体どんな事が巻き起こるのか・・・


   ― 文化祭・一ヶ月前 ―


「断る!!」
 一室の一箇所で不愉快そうに少年は否定する。
 丹念に掃除されているのか、部屋にはホコリ一つ無く寧ろ輝いている。中央に置かれたテーブルに声の主はいた。
 漆黒の短髪、琥珀色の瞳は鋭く、その外観とはそぐわぬ小柄で華奢な体格で、藍色と言うか紺色と言うか・・・な学ランを一番上のボタンまでキッチリと留めている。
 少年の名は神剣析羅(かばやさくら)、恐らくこの話の主人公。
 析羅は傍にいる生徒会の意見に猛反発をしている。
「とにかく俺は反対だぞ。」
 析羅はフイッとそっぽを向く。
「と、言われてもなぁー・・・目安箱の意見はダントツでこれなんだから、仕方がないだろう。」と、水寿(みすず)。
「代々生徒会の文化祭企画は生徒の票で決まるんだ。諦めな。」と、紋火(あやか)。
「去年だってそうだったじゃないか。」と、信(まこと)。
「お願い、やってよさくらんぅ〜!!」と、鼎(かなえ)。
 「ダメッたら駄目だ。」と、析羅は声を荒げる。
「貴様等は無関係だから良いだろうが、よく考えろ・・・?何で男の俺が、女装して客に笑顔を振り撒かなければならないのだ!!?」
 生徒会の企画、
 つまり全校生徒で一番票が多かった企画、それは・・・

『メイド喫茶(+女装神剣も。)』

「第一何でこんな企画が出てきたんだ!!」
「票を送った多くの人が女子(腐女子)と嫌がらせの男子だからだ。」
 水寿はキッパリと返す。
 確かにこの企画なら析羅が抵抗するのも無理は無い。
 だが伝統は守るべきだと思う水寿は小さな溜息を吐き、析羅の両耳にイヤホンを入れる。イヤホンは紋火の手によって押さえられた。信は析羅の両目をアイマスクで覆う。
 水寿がカチカチとMDウォークマンのボタンを押している。
 その直後、曲が流れると析羅の悶絶の声が上がる。誤解を招かないように言っておきます。MDの中身は超音波でも精神破壊を催す機能もない。
 いたって普通の童謡やわらべ歌を収録したMDである。
 析羅は「い、生贄の歌・・・ッ やめ、止めて・・・!!」と魘されながら言う。
 その反応を見て鼎は水寿に言う。
「・・・にしても意外ね、さくらんが童謡やわらべ歌の類が苦手だなんて。」
「湯木邑(ゆきむら)、真実を知ってしまうと案外歌えなくなるものだよ?」
 諭すように水寿は言う。鼎の頭には幾つもの「?」が飛んでいる。
 ちなみに析羅が聞いているのは「もみの木」。その歌の真実を知りたい人は調べてみてください。
「わ、解った!やるから、やるからコレ止めてぇー!!」
 苦痛のあまり析羅は企画を了承する。「そうかそうか、やってくれるか」と、水寿はしてやったりな表情でMDを停止させる。
(しまった、つい流れで・・・ッ!!!)
 冷や汗をグッショリ掻いた析羅は己の言質に後悔した。

 文化祭まで、あと一ヶ月。


   続く?