一瞬。
その一瞬で、体中に切り傷が現れた。
吐血し、ゆっくりと倒れる。
視界はやがておぼろげに、徐々に暗くなっていく。
完全に真っ暗になると、僕も理解した。
自分が、死ぬのだと。
― 古傷 その3 ―
視界が徐々に明るくなる。
明るくなるとそこには天井があった。
古いコンクリート製の空間で、僕は再び意識を取り戻した。
「気が付きましたか。」
声がした方向には、女性がいた。
秘書みたいな風貌の、事務的な女性。
でも雰囲気は機械や人形のそれで、感情と言ったものは感じ取れなかった。
「誰ですか、あなたは・・・」
起き上がろうとすると激痛が走り、再びベッドに倒れる。
「まだ怪我の方は完治していません。だから安静の方をお願いします。」
そう言うと女性はこちらに近付く。
一歩一歩、確実に近付いてくる。
脳裏にあの時の状況が浮かび上がってきた。
確実に近付いて、横切り、最後には僕の意識を吹き飛ばす。
咄嗟に悪寒が走った。
だが、同時に恐怖が僕の手足を凍らせる。
恐怖が僕を縛り付ける。
彼女は立ち止まり、僕の額に手を近づける。
その直後、光が伝わった。
柔らかい、暖かな光が伝わってくる。その光が僕を束縛していた恐怖を和らげた。
「貴方に能力を与えました。」
光が消えると女性は言う。
「名前は?」
「・・・リローシュ・ギョクロ」
「ではリローシュ、貴方には“血液を武器に変える能力”を与えました。能力を使用する際は“笑顔でい続ける事”、解りましたか。」
何の話ですか?
聞くのももうどうでも良くなったので軽く頷く。
「お前が天界人と地獄人の子か。」
今度は男性が現れた。
何か漫画の極道とかにいそうな人相の悪いボスっぽい人。
「リローシュ・ギョクロ・・・だったよな? 確か地獄界ではちょっとしたお尋ね物になっているとか・・・。」
僕はドキッとする。
紛れも無い、バケモノ。
だから殺す。
「途中で殺されても面倒だからな、お前には偽名で生活をしてもらう。首極悧瓏、お前は今日からリローシュの名を捨て、首極悧瓏として生きるのだ。」
シュギョク、リロウ・・・
次の日、
僕の新しい生活が幕を開ける・・・。
つづ・・・く?