所詮お互い、好きな奴重ねて見えてるだけだ。
仮初の鏡
「上総。」
自分の名前だ。
隣に寄り添う女・相模は愛おしそうに俺の名を呼び、風に浚われる漆黒の髪を撫でる。
でも、相模の瞳には俺は映っていない。
映っているのは、俺と同じ顔の、コイツが好いている男の顔。
コイツの意識は俺に向いてはいないんだ。
「何だ、相模。」
かく言う俺もコイツと同じ、テメェの好きな女の姿をコイツに重ねているだけ。
お互い偽者の相手を見つめるだけ。
お互い相手をまともに見ようとしていない。
報われない恋をしたものだから。
似てる奴にソイツの面影を重ねる。
それは紛れもない『逃避』。
だが俺達にはそれしかない。
手に入らないと判っているから、姿を重ねるんだ。
何と滑稽な仮初の鏡だろうか。
―――そんな形でしか愛せない俺達を誰が嗤うだろうか…。
終わり