私の名前は湯木邑鼎(ゆきむらかなえ)、皆さん、覚えていますか?
 只今私は一学年下の神剣析羅(かばやさくら)と付き合う為に、既成事実を築き上げる努力を重ねている。
 協力者は意外といるし、今日も恋愛成就を頑張ろう!!


  8月17日・前日


「湯木邑、奴の印象を上げるには明日しかないぞ。」
 唐突に協力者@縹水寿(はなだみすず)は口を開いた。
「何をいきなり。」
 「口答えするのは話を終えてからだ」と水寿は湯気が立つお茶を啜る。
「明日は8月17日…ナイターの日だ」
「コレ以上ない無駄知識は要らないから本題に入って。」
「つまりは明日析羅の誕生日だと言うことだ。」
「ナイターの日関係ないじゃない!!」
「明日はアイツの誕生日、其処でお前が誕生日記念品を贈呈する、析羅喜ぶ、お前に対する株が上がる。 以上だ。」
「――と言ってもねぇ…彼の喜びそうなものなんて……。」
「それを調べて贈呈するのがお前の役割だろうが。」

 そう言う訳で。

「析羅の喜びそうなもの?」
 兄の蒼伊(あおい)に尋ねてみた。
 付き合いの長さならば間違いなくこの人が長いと言う事で話を伺う。
「そう言えば去年そんな質問を本人にしたよ。」
「答えは!?」
 期待を込めた目で湯木邑は続きを促す。
 蒼伊は明らかに嫌そうな顔をした。

 ―――昨年8月10日
「析羅――、あと一週間でお前の誕生日だけど欲しい物あるぅー?」
「そうだな…」
 皿を洗う手を止め、肩越しに析羅は蒼伊を見つめた。
「誠実で真面目で仕事をそつなくこなす兄、道場をしっかりと護る父に引退したからと言って威厳を失わない祖父、まともな料理と作る弟。そんなものかな。」
 その声は紛れもない皮肉が篭っていた。

「…………………ご協力、感謝です。」
「あぁ、あそこまで皮肉られたのはアイツが初めてだ。」

「析羅の欲しい物? 直接本人に聞けば良いじゃんかそんなもの」
 西神山某マンション・澄飼(すみかい)宅。
 ペットであろうシェットランド・シープドッグを愛しそうに撫でながら信(まこと)は答えた。
「それが出来たら苦労しないわよ。」
「なら俺も判らんぞ―― 付き合いなんて一年ちょっとなんだから。」
「それでも良いから思い当たるものないのー?」
「奴が喜びそうなものねぇ――…アイツお笑いとか好きだからその手のDVDでも送れば? DVDデッキどころかビデオデッキもないけどなアイツの家。」
「………」

「お笑い、お笑いかぁ――…」
 湯木邑宅、鼎は自室のベッドに腹這いしながら考えていた。
「紋火君にも聞いたけど『お笑い関係』か『武術関係』って答えられたけど…彼基本的に道場で刀とか銃とか揃えているわよね………。」
 「お笑いしかないかぁ―――…」と言いながら、天井を見上げた。
 しばらく天井を見つめる。月光が零れる窓ガラスが横目に見えた。
「……… そうかっ」
 月光を見て何を思ったのか、鼎はそう口を開いた。


  続く