「さて、(お前等にとって)良い事があって宜しかったかと思うが……、本年1発目の家族会議を行いたいと思う。」
 『総合武術神剣(かばや)道場』と書かれた古い看板付きの門を潜ってすぐの家、神剣家次男で中学生なのにバイトを幾つも掛け持って家族を養う大黒柱・析羅(さくら)は道着姿で偽物の槍片手に脚立に腰を掛け、神剣家の大人3名を見上げていた。
「うん、それはわかった。 それはわかったよ、でも――…」
 長男の蒼伊(あおい)は蒼褪めながら析羅を見下ろす。
 そして自分…いや、大人3人の姿を見やる。
 胴体は菱縄縛りの肩で縛られ、首には『中学生にお年玉を強請(ねだ)った愚か者』と書かれた札を掛けられ、寒空の下家の屋根に吊るされている。
「何でオレ達、こんな辱め受けなきゃなんねぇの?」
「お前等自分が犯した事に自覚の一つもないのかっ!!?」

   新春初詣騒動 ――別名:析羅の不幸な1日――

 前回、神剣家の大人組(長男・蒼伊、父・市射(いちい)、祖父・麹(きく)の3人)は、いい年こいて稼ぎ手の析羅にお年玉を請求した。
 ソレに関して怒っていた所、突如現れた風野(かぜの)ハヤトが3人にお年玉(福沢諭吉を1人に付き1枚ずつ)を渡した。
 挙句の果てにお年玉を貰って上機嫌な3人は析羅に「お前アイツと付き合え!!」と言う始末。
「全く、新年早々俺には不愉快な事しかこねぇんだなぁ―――… 今頃チュー○リア○に舞い降りた笑いの神が失笑してるぜ、きっと。」
 析羅は皮肉めいた笑みを浮かばせ、槍の先端で蒼伊の頬をグイグイと突く。
「ぐぉっ 新年早々SMプレイたぁ……、大丈夫かお前(精神的に)!?」
「こうやってストレス発散しなければならないのも誰の所為だか少しは自覚しろよ」
 縁側の枯れた桜の樹を見ながら、三男・志爛(しらん)は析羅から貰ったお年玉(鏡餅の一部)を火鉢で焼いている。
「新年になって間もねぇのに、相変わらずだなお前ン家って。」
 ザリ、と足音が4つ。
 玄関の方を見れば紋火(あやか)、水寿(みすず)、信(まこと)、そして彪音(あやね)と、いつものメンバーが吊るされた大人達を見て呆れた声を上げる。
「流石のご近所もこりゃビックリするな。」
 信の言葉に、析羅は首を横に振る。
「こんなのまだ温い方だ。 どうだ水寿、お前も混ざるか?」
「蒼伊さん達気をつけろ!ドSの塊同士で最凶のユニット組みそうだから!!」
 即頷いた水寿を横目に見て、紋火は大人3人に忠告した。彪音は「シャレにならんな」と、苦笑する。
「なぁ志爛、ちょっと析羅借りてって良い?」
 彪音は縁側で焼いた餅を口に入れている志爛に声をかける。
「良いですけど…それじゃ兄様達の罰が不十分になっちゃうんですけど……。」
「大丈夫、水寿に任せれば析羅以上の地獄が見れるから。」
 「そういうわけで」彪音は脚立に腰を掛けた状態の析羅の袖を無理矢理引っ張る。
「行ってくるねー。」
 ガシャンと大きめの音を立て脚立は倒れ、ソレを気にせず彪音は析羅の襟と持ち替えて、ズルズルと引きずっていった。
「よし、とりあえずロウソク持って来い。 火点けたものを柄に括るから……ライターとガムテープも。」
「中国では爆竹を鳴らす事によって幸運を呼び寄せるとか言ってやってたぞ。」
「では志爛、爆竹の用意を。」
「そんな都合よく持ってる訳ねぇだろ! 信君もコイツの有り余る行動力を知ってるなら変な知識植えつけないで!!」
「うるせー! 誕生日おめでとうの一言もなしの奴はオレの味方じゃない!!」
「紋火さん、いそべ焼き食べます?」
「おぅ。」
「紋火、我関せず顔に餅焼いてないでくれ! アンタだけが頼りなんだ、このメンバー唯一のノーマルっ子ぉ―――――!!!」
 蒼伊の虚しい叫びが、西神山(にしかみやま)の一角に轟いた。
「極道に片足突っ込んでる時点で、俺ノーマルじゃないんだけど。」



「で、何で俺引き摺られてるんだ?」
 析羅は現在進行形で彪音に引き摺られたままである。
「何さ、初詣に付き合ってくれるぐらい良いだろ?」
「ソレでお前振袖なのか、全く…似合わないにも程があ ぐはっ」
「悪かったね。」
 言い切ろうとした析羅の腹を踏みつける。
「ただ、ね……。 初詣行く前に析羅にはちょっとある格好をして欲しいんだけど」
「―――ある、格 好…?」
 踏まれた腹を押さえて悶絶する析羅の背筋に悪寒が走った。
 その『ある格好』には、心当たりがある。
 析羅は回れ右と駆け出した。
 ソレを見て彪音は追いかける。
「テメー、まだ『女装しろ』なんて一言も言ってねぇだろ!? 何故逃げる!!」
「そう言ってる時点でさせる気満々だったじゃねぇか!! 絶対やらねーぞ、誰が何と言おうとやらねーぞ!!!」
「ソレしねぇと録った『ガ○つか』見せてやらないって言ったら?!」
「……………………」





 で、結局。
「バラエティーの魅力に負けてしまった……。」
 あれから数十分後、『ガキ○か』の魅力に負けた析羅は彪音の家まで引き摺られ、女装させられました・どっとはらい。
「しょうがねぇだろ、好きなんだよ『笑ってはいけないシリーズ』……!!」
「誰に言ってんだよお前は」
 藤色の振袖に身を包んだ、黒髪ロングヘアーの鬘とかんざしを挿した析羅は半泣き状態で人混み溢れる門の前にいた。
(だがコレも参拝までの間だけだ。全ては『○キつか』の為…、『笑ってはいけない警察24時』の為……!!)
(…………すげぇ、奴の笑いに対する執念が周囲の邪気へと変えた。)
「さ、行くぞー。」
 彪音はそう言って女装した析羅の手を引き、境内へ入っていった。
 析羅は一抹の不安を感じながら、ただ引っ張られるままであった。


  ……続くのか?