市立暁中学校。
 スポーツ関係のインターハイにちょくちょく出ている強豪で、確実にその道の天才児が集まっている学校でもある。
「困ったなぁ―――…。」
 と、そんな学校のある一室で、深い嘆息を漏らす男が一人。
 髪は風紀に引っ掛かる朱に近い色、その眼も生物学上ではやや可笑しい赤で、背丈は確実に日本の成人男性の平均を超えていた。蒼の学ランをラフに羽織り、その下に着ているシャツが露になっている。
 男の名は赤杜紋火(せきもりあやか)、当校(元)生徒会副会長で、暁の空手部を全国へ進めた存在でもある。
 高校の推薦試験も無事合格し、後は卒業してその高校へ進むだけの彼は、机の上にデンと置かれた山を見下ろして再び嘆息を漏らす。
 今日は2月14日、まぁ世に言う『バレンタインデー』である。
 机の上に盛られた山は全て義理と本命、男と女を一切問わず貰ったチョコレートである。
 その数の多さにまた嘆息を漏らした。
「今年も相変わらず多いな。」
 小学校からずっと同じクラスで過ごしてきた水寿(みすず)は軽く口笛を吹いてそのチョコの山を見やる。
「……お前だって同じぐらい貰ってるじゃねーか。」
「あぁ、貰ってるとも。 即クラスオークションに出すけどな。」
 この男は……と紋火は呆れた感じに水寿を見る。
 しかし『貰ったチョコレートを即他の(特に女に恵まれない)男共に売り払う』のがこの男のチョコレート処分の常套手段だったのは毎年の事で、紋火は文句を言う気も失せた。
「で? 毎年の事ながらそれ全部食う気か?」
「当たり前だ。」
 紋火は息を吐いて首を縦に振る。
「俺にくれたものだ、他人に上げるとか売るとかそんなの出来るわけねーだろ…? 本気で惚れた女がいるなら析羅(さくら)張りに即行で断るだろうけど、今はまだそういうのもないし。」
「さいですか。」
 水寿は息を吐く。
「まぁ無理矢理奪って売り払うような真似はしないさ。」
 水寿はチョコの山を一瞥しながら言う。
 チョコの山の中で見えるのは差出人の名前。
 しかしそれは女の名前ではなく、男の名前。
 いや、女も一応あるのだが、男の名前の方が多すぎて女子の存在が薄い。
(女に恵まれない男に男があげたチョコあげてもしょうがねーもんな…)
「こういうの貰っても舎弟にしないのにな、懲りないね最近の不良は。」
 そう紋火は苦笑するが、それは確実に違う。
 このチョコ全ては確実に、一線を超えたものだから。

 赤杜紋火。『赤薔薇殺し』と呼ばれている、女よりも男に好かれている男。


  終わり