夜間に1人で歩いていた嬢ちゃんを神剣家に送り届け、退散しようとしたところ、蒼伊さんに「泊まっていけ」 と言われ、断る訳にも行かず、て言うか自宅にいるよりも神剣家にいた方がはるかに安全な上に睡眠妨害の銃声や撲殺音が聞こえなくて快適なんで此処に一晩居 座ることにした。
で、問題が一つ。
嬢ちゃんが居るっていうこと。
3、4人余裕に入るこの部屋で嬢ちゃんと2人きりと言うこと。
肩身が狭い。
「どうしたんですか?」
首をかしげて、嬢ちゃんは俺を見た。
背丈的に、上目遣いで。
「いや、これを家族にどう説明すべきか…と考えてたんだよ」
適当な話題を振り、この空気を破ろうとした。
「ああ、それですか。私、言いませんよ?」
「え?何で?」
「だって、男の人と一つ屋根の下で寝たなんて言ったら、ハヤトさん暴れくるって貴方殺しに行きますよ?それでもいいなら、言いますけど。」
血の気がうせる。良い訳ないだろ。じゃあ、あれか?お前の…えーと、ハヤトだっけ?それは、とんでもないシスコンって訳か。
心の声で質問を繰り返し、1人で納得する。
「じゃあ、嬢ちゃん。この事は内緒の方針で。」
「はい、わかりました」
一つの会話が終了して、嬢ちゃんは門下生部屋にあった布団を敷いた。それも、随分慣れた手つきで。
「嬢ちゃん、何か家事やってんの?」
「何かって言うか・・・全部です」
「ハァ…。感心だねぇ」
析羅と比べても、その手つきは大したものだった。
つくづく感心していると、ピンポン、とチャイムが一つ。
蒼伊さんの声がしてガラリと音がした。んで、聞きなれた声が一つ。あぁ、この場から逃げ出したい。
暁のSの声だぁぁぁぁぁぁぁ!!!

蒼伊さんとのやり取りが聞こえ、上がりこんだ音が一つ。
それは歩く音に変わり、それが近づいてくる。
内心来るな来るなと必死に言いつつ、そっと祈る。
そして、ガラリと扉が開く。

「やぁ、少年。」
「あ、あぁ…お前、何で此処に?」
「今日、析羅の戦闘を手伝ったからな。その謝礼金を受け取りに来た。」
お前、そこまでするのかよ。と今更ながらの質問をした。
心の中で。
「そう言えば紋火。」
「何だ?」
「道に居た嬢ちゃんを連れ込んだって言う蒼伊さんの話、本当だったんだな。」
え?蒼伊さん、説明は正確にしようよ!!?
紋火は、本日何度目かわからない溜息を吐いた。