「明かりを点けましょ雪洞に、お花をあげましょ桃の花・・・」
 世間は、もう三月。
 もうすぐ上巳の節句である。
「はぁ〜・・・さくらんと一緒になれるのももう少しだけか・・・」
 ぼやく正体は、恋する乙女(自称)・湯木邑鼎(ゆきむらかなえ)、三月になっても神剣析羅(かばやさくら)との恋愛が成就されないのである。
 彼女は、あと約一週間で暁中学校を卒業する。それまでに、彼女はどうにかしたいと思っているのだ。
「卒業までに、既成事実を作り上げて付き合わなきゃ!!」
 それが片思いの相手にする事ですか?
 所は湯木邑財閥・鼎の個室(約12畳)、季節が季節なので雛壇を用意している。
 その最中、つけていたテレビに注目する。
:世間はもう雛祭シーズンです。所によっては、神社の石段を利用して人間雛人形を・・・:
「!!! こ、コレだわ・・・!」

「「「人間雛祭?」」」
「そう」
 所は暁中学校・屋上、元生徒会役員の面々を呼び出し、湯木邑はそんな提案をしていた。
「実際の人間を使って、着物を着せて、美しく飾った石段で記念撮影するの!」
「あー・・・そう言うのやってる地域あるよな。」
「そんな事言っても・・・その石段とかはどうする気だ?」
「我が財閥が用意するから大丈夫!!財閥のメンバーじゃ若さを感じないからさー・・・大人の人達を呼んだり、ね?」
 湯木邑は笑顔を繕う。
「いいんじゃね?面白そう」と信(まこと)。
「外出出来るならどんな理由でもいいよ」と紋火(あやか)。
「手短に済むのなら。」と水寿(みすず)。
「興味ない・・・けど、真久利(姉)の安寧を願うのなら。」と析羅。
「よし!んじゃ、必要な人材を連れて明後日お昼に中央通に集合ね」
 と、彼女は思惑通り彼等を誘う事に成功する。
 彼女の既成事実をでっち上げられると知らずに・・・。

 明後日・中央通
「全員、来たみたいね」
 来た人は析羅、水寿、紋火、信、彪音(あやね)、真久利(まくり)、斎(いつき)、志爛(しらん)、蒼伊(あおい)、如月(きさらぎ)、捺谷木斎(なつやぎいつき)、そして、招いた湯木邑の計12名である。
「んじゃ、こっちよ。ついてきて」
(皆、私の考えを察してないみたいね、)
 コレは私とさくらんが付き合っていると言う既成事実を作り上げる為のイベント!
 写真撮影の時、実はカメラに「私達、付き合ってまぁ〜す」って言う文字がフレームにされている!そして、お雛様(私)と内裏雛(さくらん)のツーショットでデカデカとアピールし、町中の人々にバラ撒くのよ!!
(頑張れ私、恋愛成就はすぐ其処よ!!)
「物凄い高笑いしてるな、今日の湯木邑」
「大方析羅とラブラブになってる様を妄想しているのだろうよ。」
 と、紋火と水寿が小声で会話していたのは言うまでもない。

「さ、着いたわ。」
 着いた先は桜舞い散る立派な石段。周りは「すっっげー・・・」としか言えないほどに呆気に取られている。
「んじゃ、お待ちかねの役振り籤ー!!」
 彼女は楽しそうに・・・いや、目的達成を待ち侘びて籠を見せる。
「皆さん(私も含めて)は、籤に書かれた役をやってもらいまぁーす!適当に遣いの人が籤を取り出してくれるわよぉー」
 「んじゃ私から、皆役柄をばらしちゃ駄目だからねー」と、籤を引いてもらい始める。
 「黒髪の短髪の人には内裏雛を引きなさい。」と、使いの者に言い残して、更衣室に赴いた。

 次々と籤は引かれていき、全員着替えを終え、所定の位置に座らされた。
「はい、チーズ!」
 「私達、付き合ってまぁーす」のフレームのままパチリ、と写真を撮り終えた。
(コレで、現像されれば、私の願いは・・・)
「意外と重いのだな、冠は。」
「へ?」
 愛しの彼の声とは、違う・・・と言うか低い声が隣・・・内裏雛の方から聞こえた。思わず彼女は内裏雛の方を見た。
「? どうした湯木邑。」
 其処にいたのは縹水寿(はなだみすず)と言う男だった。
 しばらく間を取って近くにいた使いの者に文句をつける。
「・・・ちょっと、言ってた人物と違うじゃない!!」
「え?違いませんよ、だって ホラ、黒髪の短髪。」
 確かに、見事な黒髪の短髪。ただ、愛しの男と違う所は、目の色だろう。
 次行う時は瞳の色もきちんと教えようと肝に銘じた湯木邑であった。
 当然、作戦は失敗に終わったので町中には配布されなかったが、水寿は一枚貰い、知人で写真加工が得意な人物をあたり、それぞれの雛人形姿の写真を一枚1500円で隠れファンの暁中生に売り払った。

 ちなみに、析羅はと言うと・・・
「一人の男として、屈辱だ・・・!!」
「まぁまぁ」
「大丈夫だよ、普通の女よりも様になってるよアンタ。」
「嬉しくない!!!」
 真久利、彪音と共に三人官女をやっていた。

  終わり