いきなりお邪魔します。
管理人様のサイトのストーカーをはじめはや1年…
ようやくここにきました。
どうか生暖かい目でぎこちない文を見守ってくださればと存じます。



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「綺麗ね」



「ああ」




二人は心地良い夜風に抱かれながら浜辺を散歩していた。






**沈み腐る魂に安らかなるワルツを**






今日は鈴子の別荘でちいさなダンスパーティーをする予定で、昼間散々ワルツの練習をさせられたが、本番前に二人して逃げ出してきたのだ。
佐野はちゃあんとお相手がいるし、鈴子がフォローしてくれるはずだから大丈夫だが、パートナーであるこの少年と少女は気恥ずかしいのかなかなか二人で練習せず、直前になって人前ではいくらなんでも踊りなんて踊れないと出て来てしまった。
こうして静寂を感じていると、罪の意識まで闇に持ってかれそうで怖くなる。





「さすがは鈴子ちゃんの別荘、ってかんじかな。
ほんとに綺麗」


「楽しそうだな、月も出てないのに」


そうだこのコは月を愛してるんだ。
多分だれよりも。
言ったらきっと怒って否定するだろう、もしかしたら泣くかもしれない。
でも本人も気付いていないくらい、深く愛してるんだ。




「ここはお星様が綺麗でしょう?
あたし、お星様が綺麗に見える日にお月様みたこと、あんまりないんだ」


ザザン…と悲しいか愛しさに似た波音が心に波紋を広げた。
君はいつまで俺の中で妖精みたいに遊び回るんだ?




「まるでお月様のとこにきたみたい」



「え?」





なんだそれ、ときょとんとしていると少女が少年のほうを振り返った。

風に靡く髪が肌が瞳がまるで夜闇に喰われていきそうだった。
ちりんと心の中が揺れたことを告げる鈴が頭の中に響いた。




















「だってここの浜辺、遠くから見たらまるで三日月よ。
青と白が織り成すお月様のうえに、あたしたち立ってるの」













月の下でワルツを…とかいう言葉をきいたことがあるが、上にいけるならら上のがよかったのではないんだろうか。
不思議なひかりが足元からさしてたら、なにもかもがきらきらして見えるかもしれない。

そう思うと自然に右手を少女に差し出していた。
少女はきょとんとして不思議そうに少年の手を見つめている。





「俺の手相はみなくていいよ。
たまには俺のことも、わかってくれないか?」




少女は事を察して慌てて首を振る。




「だめよ!あたし上手く踊れないもの!
てか、それじゃあ此処に逃げてきた意味がまるでないわ!」



「俺はただお前の好きなお月様の上でワルツでもとか思っただけなんだけど」



まあ最初からこうなることはわかっていたんだが。


♪♪



「「?」」




どこからかゆったりした三拍子の優雅な音楽が流れて来た。




「あ、そっか、ダンスパーティーしてるから…」






皮肉なことにそれはワルツ。

まったく、いきなりワルツか、なんて思っていると差し出したままだった右手に温もりを感じて顔を向ける。
恥ずかしそうに少女が手を重ね、『足踏んでも怒んないでね』なんて言ってる。

“お月様”のキーワードがきいたかな?



二人はふわりと踊り出した。
輝く星が、まるでこぼれてしまいそうなほどきらきらしている。
不思議とあれほど感じた恥ずかしさはなかった。
どこまで見出だせば触れ合えるのかわからない。
手は重ねていても、想いが重なっているのかなんてわからない。
触れ合うようで触れ合わない。
相手を信じないと成り立たない絶対条件。

絡み合うムツカシイ言葉を振り払うように潮騒が歌う。





「童話みたいね」







少女は微笑んだ。





「踊れないなんて嘘だろ」



「ほんとうよ!
あんたが上手いだけ!」



はあ、上手くエスコートできているということですか。
少し気恥ずかしくなったが直に掻き消された。


せっかくいただいた“童話”のような時間は無駄に出来ない。
午前零時には鐘がなって、ガラスの靴を置き去りに居なくなってしまうお姫様をあちこち捜し回る王子は一曲のワルツでお姫様のすべてを感じていたのだろうか。




















「今宵は三日月のワルツといきますか、お姫様」



「らしくないわね」


頭大丈夫?とため息をつかれる。
それでも少女は小さく笑うと空を見つめた。

ほう、よそ見しながら踊れるとはなかなかステップが頭に入ってるらしい。
俺はエスコート(?)で精一杯なのに。





ワルツを踊るとまるでぶくぶくと溺れてしまうからいけない。
愛しさと哀しさと切なさがごちゃごちゃになって自分で終止符を打つ場所がわからなくなる。
まるで酔いしれていく。
深く…どこまでも。





















「お月様」




ああ、いつになれば貴方よりも愛されるのでしょう。
永(トコシエ)まで、深い藍に沈んでしまうまで?
魂が壊れそうになり泣き出すその日まで?







「いつか貴方の歌で、私達はワルツを踊ってみたいです」






午前零時に解ける魔法は
お月様の子守唄のおかげで
泣き出さなかったようです。



END.



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投稿させていただきありがとうございました^^
また尊敬する管理人様の小説読みに来ますv
07.May.6th*猫魚