「………。」
俺はテレビを見ている。いわゆる、特番と言うやつだ。
その特番は家族特集らしく、楽しそうに、父、母、長男、次男の四人家族構成の家族が移っていた。
見ていて、耐えられなくなった。俺は、リモコンでテレビを消した。
プツン、と音をたて、画面は漆黒に変わった。
そして、反射で俺の姿が映った。

あの時、あいつの心の中はこんな状態だったのか。
風野ナエの心の中は、漆黒に染まっていて、絶望の瞳で俺を見ることしかできなかったのか。

八年前、こいつは死のうとした。

忘れもしない。夏の日差しがきつかった八月五日。その日、俺は誕生日だった。その頃はまだ母親が生きていて、一緒に誕生日ケーキを買いに行っていた。
ケーキ屋の前の橋の下だった。そいつを見かけたのは。
三人位の子供が、橋の下の日陰に居た。
俺も涼もうと思い、母親に
「母さん、ちょっと行ってくるね。」
と言い、母親も
「ケーキ買ったら迎えに来るからね。」
と返してくれた。
俺は坂を駆け下りて、橋の下を見た。
俺は、目の前の光景に絶望した。
子供達は涼んではいなかった。一人の少女を虐めていた。

「・・・・・・・」
俺は無言のまま、子供一人を蹴り飛ばした。
それで俺の存在に気付いたのか、子供達は逃げ出した。

彼女の近くに行き、手を差し伸べる。
「大丈夫か?」
「・・・・・」
彼女は答えようとしなかった。
それどころか、ガラスをつかみ上げ
「! おい!」
死のうとしていた。
すぐさまやめさせ、ガラスを捨てた。
「何してんだ!?」
「・・・・・。」
また、答えなかった。
宝石のような綺麗なみずいろの瞳が、こっちを見つめていた。
「お前、家族は?」
「・・・居ない。」
ようやく口を開いた。
「そっか・・・・。じゃ、俺んち来いよ。」
「・・・・・・?」
彼女は首を傾げる。
「・・・・これ。」
彼女が何かを差し出した。
小さな手から出てきたのは、半分に割れたブローチだった。
「あげる・・・。」
俺は、ブローチを受け取った。
「おう、サンキュ。」



その後、色々事情を話しナエは家に居候することになった。
誕生日は知らないらしいので、俺が拾った日。つまり俺の誕生日になった。
そして、現在に至る。

「ハヤトさん。」
「?なんだ?ナエ。」
嬉しそうに近寄るナエを見て、聞いてみた。
「今日、何の日だか判ります?」

・・・・忘れる訳ないだろ。

互いに笑っていった。


「「誕生日おめでとう」」



生まれてきてくれてありがとう。