「よぅ。また出会ったな、好敵手」
「今時、そう書いて『ライバル』と呼べ。馬鹿野郎」
 二人の男が対峙する。
 一方の男の手には拳銃。
 もう一方の男の手には――何も握られてはいない。
 用は素手。
「で、何だ。この前は刀だったくせに、今度は銃か。近代文明に頼るとは、お前の実力も廃れたものだな」
 素手の男は威風堂々な様子で拳銃の男に言う。
 そこから伝わってくるのは余裕。
 それは相手が自分を撃ってこないと分かっているため?
 いや、違う。
 相手は男が気を抜けば、すぐさまこめかみを撃ちぬくつもりだった。
 そして、それだけの実力がその男には備わっている。
 ならば、ただの空元気?
 ――否。それも違う。
「ふん。何とでも言うがいい。お前もすぐさまその文明の前に屈するのだ」
「知ってるか? 最近のものっていうのは、便利化が進む代わりに内容の軽薄化が進んでいるんだぜ」
「そんなもの、目的を果たすだけの十分な内容があればいい」
 拳銃の男は、弾倉に一つずつ弾を詰め込んでいく。
 もちろん、それはゴム弾なるものではない。
 実弾だ。当然、それは人を殺めるだけの力を十分に有する。
 それに対して、素手の男はポケットから1箱タバコのケースを取り出す。
 ――キングエドワード。
 芳哮な香りと深いコクがある、この男のお気に入りの一品であった。
 その箱から一本葉巻を取り出し、口に咥える。
 続いて上着のポケットからジッポーライターを取り出し、葉巻の先端に火を当てた。
 たちまち先端から上がる白い煙。
 そして口の中に広がる何とも言えない味。
 これだから、タバコはやめられない。
 口からタバコを離し、ふぅーと大きく息をつく。
 そして、片手を腰に置いて、素手の男は拳銃の男に尋ねた。
「へぇ。随分と頑固な信条をお持ちで。で、その目的は何なんだ?」
 対する男は、ふんと鼻を鳴らす。
 ――言うまでもない。
 彼の目は、そう言葉を発する。
「決まっている。お前を――倒すためだ」
 胸の前で拳銃を構え、すぐさま引き金を引く。
 パンッ!
 その音が聞こえたのとほぼ同時か、素手の男が片手に持っていたタバコの先端が消し飛んだ。
 そう、これは開戦を告げる威嚇射撃のようなものでもあった。
 ――次はない。
 拳銃の男の目は、そう語る。
 反して素手の男の顔には、軽く微笑が浮かんでいた。
「安心したぜ。どうやら実力は落ちていないようだな。馬鹿野郎」
「ふん。俺が文明の違いなどに影響を受ける人間だと思ったか。好敵手」
 素手の男は走り出す。
 その動きは異常、いや、尋常なものではない。
 拳銃の男を目線の先に捉え、ひたすらに地面を蹴る。
 疲れ?
 そんな概念など、この男の身体には存在しない。
 一方の拳銃の男は、走りくる男の一点に標準を定める。
 それは――脳。
 心臓は狙えないのか? 
 ――否。狙う必要がないからだ。
 激しい運動をする男の心臓向けて、的確な発砲をするなど、さすがのこの男にとっても不可能に近い。
 それに心臓の上には筋肉がある、皮膚がある、そして服がある。
 服の中には防弾ジョッキだろうがなんだろうが、銃弾を防げるものはいくらでも装備することが出来る。
 それに比べ、脳はただ頭蓋骨に守られているだけに過ぎない。
 頭を守る防具も、ヘルメットなど外界に晒さなければならないものしかないはずだ。
 この男にはそれがない。頭を狙えば、一発であの世行きは間違いない。
 素手の男は拳銃の男に走りよる。
 拳銃の男は素手の男を狙いをつける。
 それだけの概念が、彼らを動かす。
 そして、数瞬の時間が過ぎたその時
 一発目の銃声が、辺りに鳴り響いた。
 素手の男の身体は――倒れない。
 その動きはさすがと言ったところ。
 絶妙のタイミングで放たれた銃弾を、コンマ数秒の間で判断し、身体を少しばかり動かした。
 その結果、頭を狙った男の銃弾は、素手の男の頬を掠めた。
 拳銃の男の顔には、不思議と笑みが浮かぶ。
 さすがは彼だ。そんなに簡単に倒れてもらっては面白くない。
 それはまさしく『ゲーム』。
 その代償が『命』というだけの、男たちにとってはじゃんけんのような簡単なゲーム。
 続いてニ発目の銃声が鳴る。
 銃弾は先ほどよりも近寄っていた男の頭部に――掠めた。
 ブシュッと勢いよく吹き出る血潮。
 だが、それは決して致命傷ではない。
 素手の男からしてみれば、それはあくまでも軽症。
 そんなうちに、素手の男と拳銃の男の距離はみるみるうちに縮まっていく。
 そして、間近まで迫った素手の男目掛けて、拳銃の男が再度引き金を引こうとした時
 素手の男は、その銃口に自らの指を突っ込んだ。
 その途端、ピタッと二人は動きを止める。
 何故、引き金を引かないのか。
 否、引けないのだ。
 今の状況で引き金を引けばどうなるかぐらいは、さすがに拳銃の男も理解している。
 その結果、待っている結末は――暴発。
 そうなれば、自分は間違いなく死ぬ。彼の指が消し飛ぶことも間違いないが。
「どうした? ほら、引けよ」
 相変わらず余裕の表情を浮かべて、素手の男は言う。
 硬直の時間はどれほど続いただろうか。
 1分、5分……。いや、少なくとも10分は過ぎた。
 それだけの時間が過ぎて、拳銃の男はようやく諦めたように拳銃を下ろした。
「……何で俺はお前に勝てない」
 呆然とした様子で男はボソボソと呟く。
 素手の男は言う。
「諦めろ。それが運命だ」
「そうか……」
 拳銃の男は素直にそれを受け入れる……はずがない。
「何て言うかと思ったか馬鹿者め! 見ていろ。今度こそはお前を倒す!」
 そう言って走り去っていく拳銃の男。
 あぁ……ツンデレというのはこういうものなのかなんて、素手の男は不意に思った。
 そして、残された男は小さく呟く。
「これで1436戦、全勝か……」


終了


何が言いたかったのだろう。指って何が関係して? などと今更ながらに後悔に浸る朔夜です。こんばんは。
……久しぶりにサイトの方に小説を書いて見ました。申し訳ありません。
……いや、正直に言うとネタが思い浮かばないので、お題というものを活用させていただきました。