植木に天界力が戻った。
呆然としている、ハイジやボス達をよそに
ゆっくりと森を抱えたまま着地する植木。
 
 
(何で植木が神器を? あ、もしかして!)
 
 
森の脳裏に2年前の出来事が甦る。
植木たちは人間界に戻る前に、一度
(元)神様の元を訪れていた。
 
 
「植木、お前は何発魔王を撃ったんじゃ?」
「え? 6発全部撃ちつくしたケド・・・」
「そうか・・・」
「何かやばいことあんのか?」
「いや・・・日常生活や身体に異常が出るとゆうわけではないんじゃが、
魔王をすべて撃ちつくすという事は、ほぼすべての天界力を失うことを意味するんじゃ」
「そうなのか? って事はもう俺は神器使えねぇのか?」
「天界で生活していれば数週間もしないうちに完全回復できるんじゃが・・・
人間界では、何年か回復までかかるんじゃ・・・」
 
 
 
 
「何年かかかる」
 
 
 
その言葉が森の頭で何度を繰り返される。
そして、結論を出す。
 
 
(じゃあ、この2年とちょっとの間で植木の天界力が回復したって事!?)
「森、ハイジたちのところへ行くんだ。あいつらが一緒なら安全だ」
「う・・・うん。わかった」
 
 
 
今度はボスに捕まられないように、ナガラも森の所へ
駆け寄りながら、近づく。
 
 
「なるほど・・・それが神器とかゆうやつか・・・」
「神器を知ってんのか?」
「ああ、前に天界に関する本を読んだことがある。
天界人は、自分のレベルによって異なる10の専用武器を使うことが出来ると」
「最初に言っておく」
「なんだい?」
「俺は・・・お前を許さない!」
 
 
お互いににらみ合い、構える二人。
そして――
 
 
「五ツ星神器・百鬼夜行!」
「板に固を加える能力!」
 
 
真っ直ぐに飛んでいく百鬼夜行を板で受け止めるボス。
これが、職能力同士の激突ならば、ボスに分配が上がるのかもしれないが、
それは、あくまで職能力同士が激突した場合。
これは、神器VS職能力なので、そうゆうわけにはいかない。
 
 
「いけーぇ!」
「う・・・くぉ!」
 
 
気力と根性で、百鬼夜行を上に押し上げるボス。
だが、怒りが爆発している植木の攻撃は止まらない。
 
 
「唯我独尊!」
 
 
今度は唯我独尊がボスに襲う。
さすがにこれは、板で防ぎきれる大きさではない。
ボスはすぐさま、手を光らせ――
 
 
「靴に速を加える能力!」
「旅人!」 
 
 
加速した靴で唯我独尊をよけるボス。
よける事を予想していたのか、植木はすばやく旅人を放つ。
しかし、相手は加速中なので旅人のスピードをもってしても
箱の中にとらえることはできない。
それを見た植木はボスのところへ走りながら叫ぶ。
 
 
「電光石火!」
 
 
力比べの後は、高速戦へともつれ込んだ。
両者とも同じスピードに見えるが、植木の方が早かった。
すばやく動き、ボスへと突っ込む。
 
 
「くらえー!」
「ぐぁ!」
 
 
思いっきりボスへとパンチを繰り出す植木。
走りながら殴った上に、下あごを殴ったので
かなり効いている。
 
 
「く・・・くそ! ビー玉に爆を加える能力!」
「威風堂々!」
 
 
爆発能力を持った、5・6個のビー玉を威風堂々で防ぎきる。
いくら爆発能力を持っていても、威風堂々の頑丈さには
かなわないようだ。
 
ことごとく攻撃を止められているボス。
イラついた顔で、後ろにある道具の入った木箱をあさるボス。
そして、中から鉄のブーメランのようなものを取り出した。
 
 
(まるで、佐野のブーメランカッターだな。さっきのは鈴子の
ビーズを爆弾に変える能力みたいだったしな・・・)
 
 
わずかながら昔を思い出す植木。
そんなことを考えているうちに、
 
 
「鉄ブーメランに、斬を加える能力!」
「! 花鳥風月!」
 
 
今度は威風堂々で防がずに、空中へと回避する。
植木の中ではあの「斬」の能力はあまり防げる自信はなかった。
あの能力は、森が剣に適応し使っていたのでよくわかる。
1枚だけなら防げていたかもしれないが、5枚も投げられると
さすがに不安だった。
それを見ていた、ボスの口元がゆがむ。
 
 
「かかったな!」
「何?」
「鉄ブーメランに追を加える能力!」
 
 
今度も5枚の鉄ブーメランが飛んできた。
すぐさま攻撃をかわすが、追の能力が加わっているので
よけても、よけても鉄ブーメランは追ってくる。
さらには空中なので四方八方から襲ってくる。
植木はブーメランをなるべく引き寄せ、地面に着地する。
着地後、すぐさま手を前に出し
 
 
「唯我独尊!」
 
 
引き寄せたブーメランに唯我独尊をぶつける。
すさまじい音がする。唯我独尊はなんとか
4枚のブーメランを弾くが、1枚だけは防ぎきれなかった。
急いで威風堂々を出そうとするが、
 
 
「威風・・・ぐぁっ!」
 
 
わき腹にブーメランが当たる。
血が少し吹き出てきたので、手を傷口に当てる。
 
 
「ふ・・・終りだな。棍棒(こんぼう)に伸を加える能力!」
 
 
長く伸びた棍棒が植木を襲う。
だが、今まで大怪我をしていた植木にとっては、
これくらいは、倒れこむ傷に入らなかった。
 
 
「うおー! 波花!」
 
 
波花で棍棒を絡ませる。
そして、そのまま一気に地面に叩き落す。
 
 
「な・・・何。まだ動けるのか?」
「あいにく・・・俺は・・・」
 
 
植木は横で心配そうに見守っている森を見る。
 
 
「俺は・・・お前に負けるわけにはいかないんだ!」
 
 
森への思いが確実に植木の強さへと変わる。
ボスは手元に道具が尽きたのか、
再び武器がたまっている、大きな箱へと向かう。
 
 
「させるか! 鉄!」
「よ・・・よせ!」
 
 
武器の入っている箱が鉄でビルの外へと吹っ飛ぶ。
大量にあった、武器の箱がついに残り一つとなる。
 
 
「う・・・うおぉ・・・」
 
 
やりきれない、小さな悲鳴を上げるボス。
植木は全ての神器を駆使し、ボスを追い詰める。
そして追い詰められたボス。
ボスは苦笑しつつも追い詰められた表情で
植木に話しかける。
 
 
「まったく・・・君は罪な男だ・・・」
「は?」
「何言ってんのあいつ?」
 
 
ボスの言葉に口を詰まらせる、植木と森。
ボスは二人の様子を見たうちにまた話し始める。
 
 
「君は今自分が何をしようとしているのか、わかっているのか?」
「どうゆう意味だ」
「私は人間界の記憶を奪ったことで、この世界――
繁華界にとってとても有益な事をしようとしている。
それを君が止めるのか?」
 
 
一拍おいて、植木がボスへと言い返す。
 
 
「みんなの記憶を奪って、いい事をしようとするだと・・・? ふざけるな!」
「ふざけてなどいない。私はこの世界のためを思ってやったことだ」
 
 
さっきまでは、黙っていたハイジたちもこれには、
怒りを覚え――
 
 
「人の記憶を奪って何言ってやがる!?」
「そのの通りだ」
「サイテーだよ!」
 
 
怒り・・・と言うよりは文句を口々にする一同。
ボスはそんなことを気にもとめずに、三度植木に話しかける。
 
 
「君はそれでも、記憶を取り戻すと言うのかね?」
「ああ。やるさ。いや、やってみせる」
「植木・・・」
 
 
森が植木を心配そうに見る。
ボスが声を荒げる。
 
 
「君は・・・今からこの世界の敵だ!」
 
 
その断言に植木は自信を持ち
大声で、叫ぶ。
 
 
「構わないさ」
「何だって?」
「戦うことが罪なら・・・・・・俺が背負ってやる!!」
 
 
「植木・・・!」
「植木っち、かっこいー」
 
 
ボスは今までにないほど、表情を怒りに変え、
残った一つの箱から、これまでとは比にならないほどの
武器を取り出す。
同時に植木も両手を前に出し、お互いに同時に叫ぶ。
 
 
「バズーカー砲に!」「10ツ星神器!」
 
 
お互いの両手がこれまでに無いほど輝く。
 
 
「破を加える能力!!」「魔王!!」
 
 
全職能力の中で最高の攻撃能力を誇る「破」と
全神器の中で最高・最大の威力を持つ「魔王」が激突する。
 
 
「みんな、隠れろー!」
 
 
ハイジが目の前に、洗濯機を出し4人が後ろに隠れる。
もし大爆発を起こしてもこれなら、なんとか助かる。
 
 
「負けるかー!!」
「ふ・・ふざけるなー!!」
 
 
植木の正義とボスの欲望がそれぞれの攻撃となり
ぶつかりあっている。
 
 
「お、おい! 危ないぞ!」
 
 
ハイジの声がある。植木は目だけを動かし
横を見る。そこには森がいた。
 
 
「植木・・・負けないでよぉ!」
「も・・り・・?」
「あんた! みんなの記憶を取り戻すんでしょ!?
だから・・・だからっ!」
 
 
森は涙目になり訴えかける。
それを見たハイジ・ナガラ・ソラを森の姿に打たれ
大声で植木を応援する。
 
魔王は使い手の「思い」で形状・破壊能力のすべてが決る。
植木の心には、過去の魔王の使い手が、出せないほど 
高エネルギー・出力を出していた。
 
 
ビリビリと大砲の弾丸にヒビができていく。
そして、すさまじい音が屋上全体に広がる。
魔王が、バズーカ砲に打ち勝った。
 
 
「くそー!」
 
 
ボスはバズーカ砲を捨て、逃げ出す。
が、どうみても魔王のほうが速力は上。
ボスの足元で魔王が爆発する。
同時にその爆風で、ボスがビルの外へと吹っ飛ぶ。
 
 
「あ、見て! あいつ落ちてくよ」
「ふん。天罰よ!」
「その通りだな」
 
 
誰もがボスの事を諦めかけた、その時
植木の声が響く。
 
 
「モップに掴を加える能力!」
「植木?」
 
 
伸びたモップは、下に落ちようとするボスを掴む。
そのまま、自分のところへと引っ張る。
ボスは完全に気絶していた。
 
 
「誰も死なせないさ・・・誰も・・・」
「植木―!」
「も・・森!?」
 
 
森は走り出すと植木に抱きついた。
 
 
「良かった・・・うっ・・・植木が・・勝って・・・」
「大丈夫って言ったろ?」
「うぐ・・・っひぐ・・・う・・・うん!!」