植木たちを包んでいた、光が少しずつ
晴れてきた。同時に周りの景色が
少しずつ広がってくる。
 
 
「ここは・・・」
「あの時の河川敷じゃない」
 
 
そう植木と森が、ウールやフードの男と会い、
森に絶対に記憶を取りもどすと誓ったあの場所である。
森が静かにつぶやく
 
 
「終わったね・・・」
「ああ、みんなの記憶も戻ったはずだ・・・」
 
 
戦いは終わった。1ヶ月以上に及ぶ、死闘にも
決着がついた。
おそらくこれが、植木耕介の最終決戦だったのだろう。
 
 
(ん? 1ヶ月?)
 
 
植木が疑問に思う。
次の瞬間叫んだ。
 
 
「あー!!」
「! な・・何よ? いきなり」
「やべぇ、入試もう始まるんじゃ・・・?」
「そう言えばそうね・・・私があっちの世界に行ったとき、
こっちは、一月の二十・・・何日かだったし・・・」
「じゃあ、もう私立入試は終わってんのか!?」
「多分・・・」
 
 
そう植木は、まだ受験生。
普通の中学3年生だったのだ。
終業式の日――12月22日に人間界を離れ、
1月とちょっと、人間界では2月に近いだろう。
 
 
「森・・・今日は何日だ・・・?」
 
 
植木は力ない声で、森に訊く。
森は、携帯電話を取りだす。
ちなみに植木の携帯は、ウールを助けたときに
水に浸かったため、動かない。
 
 
「今日はね・・・あれ?」
「どうした?」
「12月の22日・・・?」
「は?」
 
 
どう見てもおかしい。
だが、携帯はたとえ別世界に行って
電波が届かなくなろうとも
中にある時計機能だけは動き続ける。
それが狂うはずはない。
 
 
「・・・あれかな・・・?」
「あれ・・・って何だ森?」
「ほら、良く映画で有るじゃん! 宇宙の1年間が地球の10年分ってやつよ」
「おお! あれか! つまり繁華界の1ヶ月がこっちで言う・・・」
「大体1時間ってトコね」
「でもおかしくないか?」
「何が?」
「だってさ、俺が繁華界で1ヶ月過ごしている時、森も1ヵ月後に
繁華界に来たんだろう? それが本当なら、森は今この時間に繁華界に行ったことになるじゃないか?」
「そうよね・・・」
 
 
二人の間にただならぬ緊張感がある。
 
 
「まさか・・・一年後の12月22日ってか?」
「・・・ううん。今年の日付になってる」
 
 
ますますわけが分からなくなっている。
森と植木は自分たちの考えられる
限り、必死なって考えている。
 
 
「もしかして・・・こっちの世界にワープする時に、別れた日に
戻っちゃったとか・・・?」
「ケド、ウールがこれを渡したんだ。急に変になるとかは・・・!」
「もしかして、あの羊がこっちの世界の最初の時間に帰ってくるように設定したとか!」
 
 
植木はウールから戻った転送板を見る。
表は何もなかったが裏に何か貼り付けてあった。
手紙のようなものだ。
 
 
 

 
 
――植木、お前には世話になった。恩は死んでも返すのが犬の忠義だが、
まだまだ、返しきれてないと思ってな。お前たちがこっちの世界に来る前の
時間に設定しといた。これで、恩が返しきれるとは思ってないが、
これが、我輩の精一杯だ。ちなみにこの手紙はミリーに書いてもらっている。
じゃあな、植木!      忠犬ウール――
 
 
と書かれていた。
ゆっくりと小さな手紙をたたむ植木。
 
 
「ウールの奴・・・・・・ありがとな」
「・・・あー!」
 
 
今度は森が大声で叫ぶ。
何かを思い出したように。
 
 
「もしかして・・・もしかすると・・・!」
「どうしたんだよ森?」
「時間が最初に戻って、みんなの記憶も戻ったって事は・・・!」
 
 
森が走り出す。
植木もわけがわからないが、とりあえず森の後に
ついて行こうと、走り出す。
 
 
もう何分走っただろうか。
すると、目の前に公園が見えてきた。
公園に入ったとき、植木の胸ポケットから
何かが落ちた。それを拾おうとするが――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ぶっちゃけー! やっと来たかー!!」
「あいちゃーん! 植木くーん!」
「遅いで植木! 森!」
 
 
その声を聞いた瞬間、植木と森は走り出した。
 
 
「み・・・みんなぁー!」
「悪い! 遅くなったな!」
 
 
植木の落とした物には、こう書かれていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――――再会の才――――