「この! この! この! この!」

 

森はすさまじいスピードで植木に剣をたたきつける。
だが植木には1発も当たることなく、はじかれている。

 

「森、頼む! 思い出してくれ」

 

この言葉を聴くたびに、森の中で
何かが少しずつ変わっていった。

 

(何か私こいつの声知ってる・・・聞いたことある・・・
ううん! 私は・・・こんな奴知らない!」

 

自分の中に出てきた植木に対する感情を
否定するように、剣を叩き落す森。

 

「あんた、いい加減にしてよ」
「?」
「何で・・・みんなの記憶を奪ったの!」

 

その質問に植木は答えることができない。
そもそも記憶を奪ったのはボスであって
植木ではない。答えようがない。

 

「あんたが記憶を奪ってどれほど、
私が苦しんだと思ってるの!?
いつも、夢に出てくる男の子とか、
学校の友達のこととかも・・・みんなあんたのせいでっ!」

 

同時に森の中でまた植木の声・表情が
浮かんでくる。

 

(私は知らない! こんなやつのことなんで知らないのに・・・!)

 

いくら否定しても頭の中から出てくる、声・表情
森が必死に否定し攻撃してくるとき、
植木が口を開いた。

 

「森・・・そこをどいてくれ! 俺は上に行って
あいつを倒せなきゃならない!」

「何に言ってんの? なんであの人を倒す必要があるのよ!?」

「あいつが、みんなの記憶を奪ったからだ」

「はあ? 記憶を奪ったのはあんたでしょう!」

「違う」

「あの人はね、私にいろんなことを教えてくれたわ。起きている事件のこととか――」

「じゃあ、どうしてそんなに知ってるんだ?」

「え?」

 

 

植木の問いに口を詰まらせる森。

 

「あいつは、なんで記憶を奪ったこととか
そんなに詳しいんだ?」

「え・・・それは・・・」

 

 

また言葉を詰まらせる森。
森自信、ボスには不明な点が多すぎた。
突然自分の前に現れて、記憶を
戻すと言われ、警察や科学者すら
テレビで何一つ公開されていなかった
情報を信じられないほど詳しく
話してくれた事。

 

 

「あいつが・・・みんなの記憶を奪ったからだろう!?」

「嘘・・・だってあの人は――」

 

森の頭が再び困惑の色を出し始める。
だんだん頭が痛くなってきて、
今にでも手で覆いたくなってきた。

 

「あいつを倒してみんなの記憶を
取り戻すこと・・・・・・
それが、今の・・・俺の正義だ!!」

「!!」

 

その瞬間、森の頭の中で
数々の言葉がフラッシュバックする。

 

 

 

 

 

―ぶっちゃけー俺も仲間に入れてくれないかぁ!?―

―時には。知恵が力を上回る事だって、あるんだぜ!―

―で・・・でも、もしあそこで逃げちまったら
 オレはオレ自身をお前等の仲間だなんて
言えねぇと思ったんだよ―

―信じるとか・・・信じねぇとかそんな
 きれいごとよか、あいつの命のほうが何百万倍も
 大事じゃねぇのかよ!!?―

 

―あいちゃんを本気で殺そうとしたあなを許さない!―

―私はよわいけど・・・2度と負けたくない!!―

―言ったはずですわ・・・死んでも
 友達の命は・・・守るって!―

 

―ぶっ倒れるまで、こいつの盾にでもなったるか!―

―なんでさらばやねん・・・犬丸ーーー!!―

―今のオレには仲間がおる。互いを信じ、
 命賭けられる仲間がな!―

 

―むくわれようが・・・むくわれなかろうが
 関係ねぇ! これが俺の行き方なんだよ!―

―人間は弱いけど・・・強くなれるんだ!!
 強くなること・・・それが『オレの正義』なんだ!!―

―森・・・ないても笑っても明日の
 四時選考で最後だ。
 頑張ろう・・・みんなと会えて良かったって
 ちゃんと思えるくらい!―

―ありがとう・・・みんなと会えてよかった・・・―

 

 

その瞬間、森はコンクリートの
地面にどさっと倒れる。

(私・・知ってる。この言葉・・・声・・・みんなの顔・・・)

 

「森大丈夫か!?」

「う・・・う・・・え・・・植・・・」

「森!」

「植・・木・・・うえき・・・植木!!」

 

森はそのままの勢いで、植木に抱きついた。
植木の中で大声をあげ森はないた。

 

「うっ・・・ひっぐ・・・う・・・植木ぃ・・・」

 

誰にも頼らないで生きていく。
その生き方が違かったと感じたとき
周りにはもう頼れる人がいなかった。
つらかった。かなしかった。
でも、頼れる人に・・・植木に会えた。

 

「う・・・っ・・うぐ・・・」

「森・・・大丈夫か?」

「思いだしたよぉ・・・植木ぃ!」