どれだけ豪華な衣も、溺れそうになるほどたくさんの金子も欲しくは無かった。
ただ私は、あの人のそばに居たいだけだった。


ここは東の果ての国境の町。
町を出て、さらに東へ向かえばそこには一面の砂漠が広がっている。隣国はその砂漠を越えた遥か彼方に存在する。
隣国との関係は可もなく不可もない。ある日突然関係が途絶えてもおかしくは無いほどに、その関係は薄く、儚い。隊商による交易のみで二つの国は繋がれている。
そしてこの町は、その隊商らの存在によって支えられていた。



「咲弥姐さんおられますかァー?」
不意に聞こえた自分を呼ぶ声に、咲弥は文机から体を起こした。続いて、パタパタという可愛らしい足音が聞こえる。きっと緋真が応対するために降りていったのだろう。
思ったとおりに、しばらくすると咲弥の室の扉が静かに開かれた。
「咲弥姐さん、小太郎さんがお見えです」
「えらい元気な声や思うたら、小太郎やったんか。ちゅうことは、戻ってきたんやな。お隣さんから」
珍しく朝から機嫌がよさそうな姉貴分に緋真は目を丸くした。その様子に咲弥は気がつくと、仙女にも勝ると評されるその美貌にほんのりと意地悪な微笑を浮かべた。
「心配せんでも、小太郎を横取りしたりはせんよ」
「そんなことを・・・!!」
「隠してもムダや。ぜーんぶ顔に書いてある」
パクパクと酸欠の魚のように口を開閉する妹分を一人、室に置き去りにして、咲弥は階下へと向かった。

「あ、咲弥姐さん!すみません、お呼びたてして」
「ええよ、別に――安心したわ、今回も無事に帰ってきたんやな」
小太郎は隊商の長の息子で、十二のときから父の隊商に加わって、一年のほとんどを砂漠と隣国で過ごしている。
隊商の旅に危険は付き物。砂漠はもちろん、売買の品や金子を狙ってくる盗賊どもから自らの命を守らなければならない。
「はい・・・・・残念ながら、二人、亡くしてしまいましたが・・・」
「・・・過ぎた事を悔やんでもしょうがないやろ。その二人は自分の命を掛けて、あんたらを護ってくれたんや・・・そんな顔しとったらその二人はあんた以上に悲しい顔するで」
年下の、まだ幼さの残る少年に咲弥はそう言い聞かせた。どれだけ悔やんでも、消えた命は戻ってこない。ならば、彼らの死をどれだけ今後に生かすことが出来るか、それが一番の供養ではないかと咲弥は思っている。
「ほら、元気出して!!・・・まったく、仙女にも勝ると評される花街一の妓女の前で、そんな顔するんはあんたとあんたの兄さんだけや」
その言葉で本来の目的を思い出したのか、小太郎は顔を上げた。
「・・・!忘れるところでした。――はい、お手紙です。一つは隊長から、もう一つは・・・兄さんから」
咲弥はただ驚いた。小太郎の兄――康信からの手紙だと!?
「康信から・・・・・・なの?」






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なかがき?

こんにちはーTamaといいます。
文章を書くということがあまり無かったため、ところどころ日本語がおかしいところが存在するとは思いますが、見逃してください(必死)あと、文中の咲弥の関西弁(京都弁?)ですが、生粋の九州人のうろ覚えによるものなので、本場の皆さん、申し訳ありませんが、サラリと流してやってください。・・・お願いします!!!!!(平身低頭)