空が薄暗くなる頃、茶屋や置屋の軒先には火のともった提灯が下がり始め、若い女たちの賑やかな声と白粉をはたく音がそれにより一層の彩りを添える。
そんな町の様子とは一線を画したように静寂に包まれた室で咲弥はいつものように支度をし、緋真はそれを手伝っていた。
緋真は咲弥の手伝いが出来ることをとても嬉しく思っている。彼女の姉貴分は着飾らずとも神々しいほどに美しいが、豪奢な衣を纏い、化粧を施すとまるで光を集めたかのように美しさが増す。以前お客が“格が違う”と言っていたが、こんなときにこそその言葉を実感させられる。
いずれこの姉貴分に追いつき、追い越すことが緋真の目標だがそんなことは到底出来そうにない。
「どうしたん緋真?黙りこくってしまって」
なにやら落ち込んだ表情で簪を挿してくれている妹分に咲弥は思わずそう言った。
「いえ・・・・どうすれば咲弥姐さんみたいに綺麗になれるのかなァと思って・・・・」
年頃の少女なら誰もが抱く悩みに咲弥はこっそり微笑んだ。
「なんや、そんなことか。心配して損したわ」
「!ちょ・・・・ひどいですよォ。私、真剣に悩んでるのに・・・」
「人を好きになれば、勝手に綺麗になるモンや」
いきなりの爆弾発言に緋真は思わず簪を挿し損ねた。
「!!?え!?咲弥姐さん好きな人おるんですか!??」
「あたりまえや。どんな世界におっても、どんだけ年取っても人は恋をするもんや――ありがと。もう下がってええよ」
化粧を終えた咲弥は緋真にそう告げた。ここから先は男衆の仕事だ。着る予定の着物を広げながらさらに咲弥は続ける。
「あんたも早よ支度し。とびきりええの、ちゃんと着るんよ?そうせな小太郎にあんたの失敗談やら恥ずかしい話吹き込むで」
「わー!!?それだけは勘弁してください!!」
「やっぱり小太郎のこと好きやったんか」
「!!?違いますってば!!――失礼しますッ!!」
林檎のように頬を染め、逃げるように室を出て行った緋真の足音を聞きながら咲弥は一つ、溜息をついた。
・・・・素直に感情を出せる、緋真が羨ましい。
あの頃の自分は、もうすでに意地っ張りで、どうしようもないほどに高飛車な、子供らしくない子供だった。
単の袷から折りたたまれた野暮ったい紙を取り出す。
開けば懐かしい、大らかな文字が紙いっぱいに並んでいた。その紙の中心に静かに口付けると、もう一度丁寧に折りたたみ、袷に滑り込ませた。



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なかがき2

ド下手くそでゴメンなさい(謝)
図々しくも、続きます・・・・・・・・・・・。