「植木の奴おそいなぁ」
ただ今9時50分。約束の時間まで、あと10分。

「まさか忘れとんとちゃうか森、あいつの性格からして・・・」
「え、でもちゃんと言ったし…来ると思うんだけど…」
「そうですわ佐野君、まだ10分ほどありますし」

ここは約束の待ち合わせ場所の駅前。
森、佐野、鈴子の三人はすでに何分も前から来ていたのだが、肝心の植木がまだ来てない。

「…あの馬鹿、来たら思いっきりぶん殴ってやる…」

だんだん森はイライラしてきて体から怒りのオーラが出始めた。

「「・・・・・・」」

佐野と鈴子は少し後ずさりをする。そうしてしばらくしたら…

「わるい、わるい、ここまで来るまでの信号に全部引っかかっちまって遅くなっ…ん?」

汗をかきながら走ってきた植木だが何かの殺気を感じたのか、急に立ち止まる。

「……う〜え〜き〜!!!!!」
「なんだ森?すげぇ顔して」と首を傾げながら聞く。
「…あんた……遅い!!!!!」 

バキッ!!!!と、すごい音が辺りに鳴った。

「いっっっって〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!何すんだよ、いきなり…」

殴られたところをさすりながら文句を言う。

「あんた以外はみんな30分も前から来てたのよ!!あんたったらギリギリじゃない!」

近くにあった時計にビシッと指差す。

「いいじゃん、間に合ったんだし」
と、怒られても殴られてもマイペースな植木。

「まぁまぁ、いいじゃないですかあいちゃん、植木くんもちゃんと来たことですし」

と鈴子が仲介に入る。

「でも…」「そうやそうや忘れずにきたんやし、さっさと出発しようや」
「そうそう佐野や鈴子の言うとおり。さっさと出発しようぜ、出発」と植木。

「「お前が言うな!!!!」」森と佐野が同時に突っ込む。
隣で鈴子がクスッと笑いながら、植木が二人にリンチされるのを見ていた。


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それから、4人は最近できたばかりの遊園地へと向かった。
最初は佐野の希望でジェットコースターにのった。これは鈴子は初挑戦で最初は頑固に乗りませんと言い張っていたが、結局佐野に言い負かされて渋々のった。
ガラガラと頂上付近まで来ると、鈴子の顔は真っ青。
「鈴子、大丈夫か?」隣の佐野は見ていて心配になって聞く。
「・・・・・・・・」
全く聞こえてないらしい・・・
そしたら次の瞬間ジェットコースターは物凄いスピードで落下した。
「きゃーーーーーー!!!!!!ぎゃーーーーーーー!!!!いや〜〜〜〜〜!!!!!」



「…次…何に乗るんだ?」

近くにあったベンチにあお向けに倒れている鈴子をよそに植木は言う。
…こんな調子で四人は遊園地を回った。
メリーゴーランドに乗り、(これには男二人は遠慮した) お化け屋敷に入ったり、(鈴子がまた絶叫しセットをビンタでぶっ壊す・・・)たまたまあってたイベントショーを見たり、カフェで昼食を食べたりして楽しんだ。(これは遅刻?してきた植木のおごりだった)

「鈴子ちゃん…大丈夫?まさかあそこまで絶叫系がだめだなんて知らなかった。」
まだ鈴子の顔のが冴えないので森が心配して言う。

「そういう森だって、お化け屋敷の時、結構叫んでて、うるさかったぞ」
「え、う、うそ!!///」「いや本当だし…」
「で、デタラメ言わないでよ!」「………ふぁあ〜〜……ねみぃ…」

森はムキになって言うが、植木は眠そうな顔して聞いていない。
そんな二人を見ていた鈴子達だが、また、ぎゃあぎゃあ森が言い始める前に佐野が、

「そろそろ暗くなってきたことやし、次ので最後にせえへんか?」

確かにすでに日は沈みかけていて人も随分少なくなってきた。
というわけで、最後は全員の一致(植木を除く)で観覧車に乗ろうと決まった。
客も、もう少なかったので植木たちにすぐ順番がまわってきたのだが・・・

「四人で乗るにはちょっと狭くない?」
・・・確かにその通りで四人で乗るには少しばかり狭いようだった。
「…しゃあない、ここは二人ずつ乗ろうや」
「え、二人ずつっていわれても・・・」

そう言って森は植木のほうを見るが、植木はどうでもいいやと言うような
顔をしていた。

「…はぁ〜〜、……まぁいいや…鈴子ちゃん乗ろう」
「え、あ、はい」

佐野をチラッと横目で見ていた鈴子は慌てて返事をする。

「じゃあ、後でね」と森は植木たちに手を振りながら入っていった。

「……しゃあない、植木、わいらも行くぞ」
「ん?あ、おう」

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「…なぁ…植木、ちょっと聞いてもええか…?」

乗ってからしばらくして佐野が言った。

「ん?なんだ?」
外の景色を見ながら植木は返事をする。

「…おまえ……森のことどう思っとるんや?」
「……は?」

佐野の質問に少し驚いたのか、景色から目を離し佐野を見る。

「なんだ、いきなり」
「いや…いつも一緒にお前らおるやろ。…せやから気になってな…」
「…どう思ってるのかって聞かれてもな…」

植木は頭を傾げながら考える。

「…なんとも思っとらんのか?」
「……ん〜………大切な……友達かな?」

「……ほんまか?」
「………何でそんな事聞くんだ?」

また景色のほうに目を戻して聞く。

「・・・・・・」
「佐野・・・?」

「……わいは…わいはじつは・・・・・・好きなんや・・・森のことが・・・」

一瞬沈黙が続いたが、

「……へぇ……」
と、相変わらず景色を見ながら無表情で言う植木。

「・・・・・・なんともおもわへんのか?」
「なんで?」 
「・・・・・・いや・・」

こんどは長い沈黙が続く。

「…せやったら…もし、わいが森と付き合ったとしてもどうも思わんのやな」

「……あぁ」
「・・・そうか・・・安心したで」
「・・・・・・」

それから二人は無言のまま観覧車は一周し回って森たちと合流し、佐野と鈴子と別れた。


「ねぇー植木、…なんかあったの?」
森は二人で帰っている途中に、植木の様子がおかしい思い聞いてみた。
「…ん、なんでだ?」
「だってあんた観覧車から降りてきたときから一言も喋ってないし…なんかあったのかと思って…」

こっちを見ようとしない植木の顔を覗きながら言う。

「別に普通にしてるつもりだけど・・・なんだよ、どっか変だか、俺?」

と言って植木は一瞬こちらを見たが、すぐにパッと目線をはずした。
その行動と言い方に少しながらショックを受けながら森は、

「ううん別にそういうことじゃないの……なんか悩み事でもあるなら言ってよね…」
「……ああ」

それからお互い無言のまま分かれる時に、
「じゃあな」「うん、じゃあね」と、軽い別れのあいさつを交わして二人は別れた。

「…私…嫌われてるのかなぁ…」
帰る植木の背中を見ながら、ポツリと呟いた。

今は11月の中旬だが、夜はすでにかなり冷えてきていて、
木にはほとんど葉はついていない。そんな風景を見ながら森は白い息を吐きながら
自分の家への道を歩いていった。