「……植木の…ばか……っ」

森は泣きながら廊下を走っていて、チャイムが鳴っても走り続けた。
そして誰もいない教室の中に入って声を殺しながら泣き続けた。

しばらくして落ち着いたのか近くにあった椅子に座る。

「…馬鹿なのはあたしだ……」

上のポケットからあのペンダントを取り出す。

「結局わたしは嫌われていたってことだし…これも渡せなかったし…」

そしてまたあの植木から言われた言葉を思い出す。


…おれにもう……近づくな…


「………っ…」

そのまま森は泣き続けていた。


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「…このペンダントどうしよう…」

ベッドに座りながら呟く森。
あれから森は教室に戻って、先生にかなり怒られたのは言うまでもない。
その次の休み時間に、行きたくなかったのだが、友達に会いに行くだけだと自分に理由をつけて植木の教室を見に行ったのだがそこには植木の姿は無かった。
友達に聞いたところ昼休みが終わって体調がおかしくなったというので早退したと言う。

「……もう、植木とは一生…話したりできない…のかな…」

そう思うとまた涙が溢れてくる。
そんな時いきなり携帯の着信メロディが鳴った。
植木かもしれないとあり得ないこと自分で分かっていながら携帯を開いた。

「……佐野からだ」

見るとそこには、佐野 清一郎という名前が写っていた。
あまりだれとも喋りたくなかったのだがやはり無視するわけにもいかず通話ボタンを押す。

「…はい、もしもし…」
「おぉ、森か!久しぶりやの!」
「なに言ってんの、この前の土曜日みんなで一緒に遊園地に行ったじゃない」
「あぁ…そういえばそうやったの…わすれとった」
「……忘れてたって…あんたもう歳じゃないの?」
「あほなこと言うな!!」

とお互い笑いながら言う。

「それで何か用でもあるの?」

佐野から電話してくることなど初めてなので疑問に思い聞く。

「あぁ実はわい、今度またそっちに行くことになったんやけど、この前、植木たちもおってあんま喋れんやったから、会われへんかと思っての」
「ふ〜ん、そうなんだ…別にいいけど、なんで私なの?
男同士…植木と行けばいいじゃない」

「どうしても言っておきたいことがあっての…」
「わたしに?」
「…あぁ」

なんだか真剣な声で言ってくる佐野。

「わかった、じゃあいつ会う?」
「明後日の土曜なんてどうやろ?」
「…じゃあ土曜日にこの前の駅前に待ち合わせね」

と佐野と約束して電話を切った。

「なんだろ、話したいことって…?」


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そして土曜日、待ち合わせ場所の駅前。

「あ、きたきた……佐野!こっちこっち!」
「すまん、またせたの」

まるでデートの待ち合わせの様やな…と心の中で思う佐野。

「で、用ってなに?」

…だがまるでそんなこと全然思ってないように森は佐野に聞く。

「あぁそうやったな……でもここじゃ言えへんから、ここと違うとこで言うわ」

「…あっそ…じゃあどこに行くの?」
「そうやの……あんま人がおらんとこがええな…」

近くにあった地図を見ながら考える佐野。

「じゃあ、私が知ってる公園に行こうか?いつもあんま人いないし…」
「そうか…じゃあそこにしよか」

と佐野も同意してその公園に二人は向かった。




「で、さっそくだけど話ってなに?」

公園に着いて二人ともベンチに腰掛け森が聞く。

「あぁ、そうやな…とちょっとその前に聞いてもええか?」
「なに?」

いきなり佐野から聞かれ首を傾げる森。

「なんかいつもの元気が無いようやけど…なんかあったんか?」
「…え………うん…まぁ…ちょっと」
「どうしたんや?」

「……………」

いきなり黙り込む森

「森…?」

心配になって聞く佐野。

「…………じつは…」


森はあの一部始終を話した、佐野は黙ってそれを聞いていた。


「…そうか、そんなことがあったんか…」

「………うん」

「おまえ…植木が好きなんやろ」

「………うん……って、な、なに言わせんのよ////」

つい返事をしてしまい赤くなる。

「ちがうんか?」
「………好きよ…だから悩んでんじゃん…」



長い沈黙が続く


「…なら……森……わいが植木の代わりじゃだめか…?」
「…え?…………それって…どういう意味?」
「わいは……おまえのことが好きだったんや、だから…
…植木の変わりにわいと……付き合ってくれんか……?」

と言って急に森を抱きしめてきた。

「ちょっ、ちょっと佐野」
「…頼む……」

森は佐野のいきなりの言葉と行動に戸惑う。

…確かに、佐野のことは好きだけど……だけど…やっぱりわたし…

森が佐野に言おうとした時だった。

目の前に緑の髪をした一人の男性が箒を持って立っていた
その男性を見て森は愕然とする。

「う、うえき……」

そこに立っていたのは紛れも無く植木本人

「…………!」

植木は目の前の光景を少し呆然とした様子で見ていた。

「…植木……なんでここに…」

佐野も植木に気づいて森と離れた。

「……何でって…見てわかるだろ、掃除しに来たんだよ…またゴミが散らかってるみたいだしな…………悪かったな邪魔して」

と植木は何も見なかったように平然としながら喋る。

「俺、邪魔みたいだし、また今度にするから……いいぞ…続きでもやってろよ…」
と言って帰ろうとする。

「そうか、そりゃ悪いな」

とそんな植木を見て佐野は言う。

「………べつに…」
「ちょ、ちょっと植木、まって」

引きとめようと植木の方へ行こうとしたが…

「…よかったなお前ら…お互い…好きだった相手と恋が叶って…」
「………え……?」

…どういう意味……?

と気づいたら、もう植木の姿は無かった。
とにかく追いかけなくては…と走り出す森。

「ちょ、ちょっとまてや、森」

佐野が森の腕を掴んで引きとめようとする。

「……ごめん佐野…やっぱりわたし…植木のことが好きだから」

と言って振り払い走っていった。



「……無理やったか………やっぱ初恋ってのは実らんもんやの…」
とひとり呟いた。

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「はぁ、はぁ……植木……どこ…?」

森は走り回りながら植木の姿がないか探す。
まだそんなに遠くには行っていないはずだ。

「はぁ、はぁ、はぁ…………いた!」

見慣れた後ろ姿が目に入り走って近づく。

「植木!!」

植木の足がピタッと止まった。

「………なんだ」
こちらを振り向かずに植木は言った。

「え、えっと、さっきのあれ…違うの……誤解だから…」

まだ息が荒いまま必死に森は言う。

「なにがどう違うんだ?」

あいかわらず振り向かないまま聞く植木。

「抱き合っている様にしか俺には見えなかったけどな…まぁ、誰にも知られたくないってんなら安心しろ…誰にも言ったりしねぇから……じゃあな」

と言って歩き出す。

「ちょ、ちょっとだから誤解だって言ってるじゃない、まって
てば!…植木!」

と植木の肩を掴んで止めようとした……その時だった。


バシッ!!


「……えっ」


なにかを殴る音が辺りに響く


「………言っただろ………俺にもう近づくなって…」

そう一言だけ言って植木はまた歩き出す

「…………ッ」

森は止めることができなかった
目から溢れる涙がいくつも地面に落ちていく。
そして…もうあの頃には戻れない…そう森は確信した