「はむっ…。ほいひぃふぇふ(おいしいです)」
「ちゃんと飲み込んでから喋れ」
 向かい側に座る円花を見ながら、彗は言った。
 すると、円花は気付いたように、何回か噛んでゴクンッと飲み込んだ。
 相変わらず、可愛い奴だな…と彗は思った。
 しかし、おいしい。と言ってくれれば、口に含みながら喋られても気にはならない。
 きっと、自分の顔にも微笑が浮かんでいることだろうと彗は思った。
「ところで、彗さんが寝坊するなんて珍しいと思うんですけど、昨日は疲れてたんですか?」
 ふと、思い出したように円花は言った。
「ん? あぁ…。まぁ、昨日は色々あって…」
 昨日のことを思い出し、思わず彗の顔には苦笑が浮かんだ。
 毎日のように酷い目に会っている彗だが、昨日は中々酷い一日だったらしい。
 そんなこんなで、彗には昨日の時点でかなりの疲れが溜まっていた。
 それなら、グッスリと眠ってしまってもしょうがないことだった。
「そうだったんですか…」
「まぁ、もう慣れだけどな」
 円花にあってから、彗の毎日が劇的に変化した。
 少なくとも、家ではいつも円花といることになったし、学校では色々なことに巻き込まれるようになった。
 まぁ、おかげで学校が地獄のような存在にもなってしまったが。
「あ、そうだ。彗さん。一緒に買い物に行きませんか?」
「ん? 買い物?」
「はい。買い物です」
 笑顔で円花は言った。
(そういえば、最近買い物に行ってないしな…)
 冷蔵庫の中身は大丈夫だろうか? と彗は思い、徐に冷蔵庫を開ける。
「…少ないな」
 冷蔵庫の中は、空の部分が目立ち始めていた。
 どうやら、買い物は近々必須らしい。
 ふと、円花に視線を向けると、着いてきてくれるかどうかで不安そうな表情を浮かべていた。
「することもないし、行くか」
 彗の言葉に、円花の表情はパァーっと明るくなった。
「あ、ありがとうございます! 彗さん!」
 そのまま、彗の身体に飛びついてくる。
「お、おい!?」
 身体に飛びついてきた円花を受け止めたのはいいが、彼女の決して豊満とは言えないが、膨らみの感触が彗の身体に伝わってくる。
 彗の鼓動が高鳴る。
 彗は、ただただ自分の鼓動が円花に聞こえないことを祈るばかりだった。

続く


第三話へ