二人の一日 その3

「…円花。頼むから、もうちょっとゆっくり歩いてくれ」
「あ、そうですね。ごめんなさい。彗さん」
 彗の両手には、スーパーの袋4つがぶら下がっていた。
 しかも、それが重いのなんのって…。
「彗さん、やっぱり私も持ったほうがいいですよね」
 円花が申し訳なさそうに言う。
 本音を言えば、確かに…重いから持って欲しい。
 だが…
「いいって。それに、家までだったらすぐだし」
 彗の男としての意地が、それを許さなかった。
(…にしても、こうやって、買い物袋を持ちながら二人並んで歩くって言うのは…はたから見れば夫婦か、結婚寸前の恋人同士みたいなんだろうな…)
 そう考えると、少しばかり辺りの視線が気になった。
 こんなときに会いたくないやつは一杯いるが…、特に会いたくないのは
「あ、昇神彗さん」
 ふと、声をかけられた。
 嫌な予感がしながらも、そちらを向く。
「げっ…」
 そこにはいた。
 今しがたついさっき、一番会いたくないと考えた奴が
「あ、真さん。こんにちは」
 円花も彼の姿に気づいて、声をかけた。
「死之神円花さんも、こんにちは」
 何の抑揚もない無表情で見つめる彼の名前は襟木真。
 彗が毎日酷い目に合わされている根源の一人だった。
「で、お前は、ここで何をしてるんだ?」
 早いうちに、真の目の前から去りたい彗は、簡潔に真に問いかける。
 真の答えは、一言。
「買い物」
 と、答えただけだった。
 よく見れば、彼の片手にも買い物袋がぶら下がっていた。
 と、今度は逆に真が彗に問いかける。
「昇神彗さんは、死之神円花さんと買い物?」
「あぁ。そうだよ」
「冷蔵庫の中身が少なくなってきたんです」
 ぶっきらぼうに答える彗と、そんな彗に苦笑しつつ答える円花。
 しかし、円花の言葉を聞いた真の目が少しばかり変わった…感じがした。
「ふーん…。なるほど。二人は同棲中…と」
 メモ帳を取り出し、挟んであるシャープペンでサラサラと言ったことを書く真。
「待てこら!? そのメモ帳、どうするつもりだ!?」
「放送部に提供する」
 真の言葉に、彗は真剣に訴える。
「そんなこと放送されたら、俺は全校生徒を敵に回すことになるわっ!?」
「そうなんですか?」
 円花が疑問を浮かべて、問いかけてくるがこの際無視。
「面白そうだし…」
「面白くないわッ!! 俺にとっては洒落にならん!!」
「でも、同棲してることは否定しないね」
 すっかり熱くなっている彗に、真の一言はあまりにも衝撃的だった。
 確かに…彗の言葉の中に一言も同棲を否定する言葉はなかった。
「なっ…」
「はたから見れば、婚約者同士ぽかった」
「なっ…」
「えっ?」
 彗は先ほどから慌ててばかりだし、円花は真の言葉で顔を真っ赤にさせた。
(面白い…)
 真は、この二人を見て、正直に思った。
「と、とりあえず、そのメモ帳をとっとと…」
「あ、時間だ。バイバイ」
「って、おい!? 待てこらッ!?」
 真は腕時計を確認すると、そそくさと去っていった。
「だから、嫌な予感がしたんだ…」
 彗はため息をついて、円花を見る。
 と、彗の視線を円花は確認すると…恥ずかしそうに言う。
「彗さん…。私たちって、そんな風に見えるんですか?」
 円花の恥ずかしそうな表情。
 上目遣いで自分に向けられる視線。
 思わず、彗の鼓動が高鳴った。
「そ、そうかもな」
 赤くなってしまった顔を見られたくなくて、彗は早足で先を歩く。
「す、彗さん。ま、待ってください!」
 慌てて、円花は追いかけてきた。

続く 

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