二人の一日 その4

 昼ご飯を食べて、彗はお皿を洗っていた。
 円花は先ほどの買い物で疲れたのか、ソファの上で眠たそうにしている。
 うとうととしているその様子が可愛らしい。
(まったく…)
 彗は冷たい冷水を自分の手に浴びせ、ゆっくりと台所から離れる。
 自分の手は、長い間冷水に触れていたせいで、かなり冷たくなっていた。
 そして、円花の後ろからこっそりと近づく。
 円花は相変わらずうとうとしているせいで、こちらに気付かないらしい。
 円花に悟られないよう、少し離れたところで立ち止まり、ゆっくりと手を伸ばした。
 そして、ゆっくりと円花の頬に触れる。
「ひゃっ!? つ、冷たいッ!」
 円花はビクンッと反応して、すぐさま飛び起きた。
 先ほどまで襲っていた眠気は、どこかへと消え去っていた。
 円花は彗の方へと振り向いた。
「い、いきなり、びっくりするじゃないですか。彗さん」
「眠たそうにしていたお前が悪いんだ」
 うっ。と円花は図星をつかれて、黙ってしまった。
 た、確かにそうですけど…。と、ゴニョゴニョと小さな声で円花は言っているが、あくまでも彗は聞こえない振りだ。
 円花は見ていて飽きない。
 からかってやると、いつも素直な反応をしてくれるし…一緒にいてつまらないなんて思ったことはなかった。
「相変わらず、可愛い奴だな…」
 ついポロッと出てしまった自分の言葉に、しまった…と彗に後悔が襲う。
 口を慌てて押さえるが、もはや遅い。
 円花は、最初はキョトンとした表情をしていたが、その言葉が自分に向けられた言葉だと分かると、顔を真っ赤にさせた。
「あ、あの…、彗さん。それは、どういう意味…ですか?」
 真っ赤になっても、問いかけてくる円花に彗は答えるべき言葉が見当たらなかった。
 顔が赤くなるのを自分でもコントロールできない。
「そ、そのまんまの意味だッ!!」
 彗はヤケクソ状態で、円花に言った。
「あ、ありがとうございます…」
 円花は顔を真っ赤にさせながら言った。

続く


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