「ん……」
 円花はゆっくりと目を覚ます。
 円花は本当は彗を起こそうと、彗の部屋に来た。
 しかし、気持ちよく眠っていた彗の顔や様子を見ていると、自分まで眠くなってしまい、案の定そのまま寝てしまったというのが現状だった。
 布団の中へ潜り込んでいた理由は、…円花しか知らない秘密だ。
 と、円花は自分の頭に彗の手が添えられているのに気付いた。
 彗はどうやらまだ眠っているらしい。
 しかし、円花は彗が途中で起きた。ということがそれで分かった。
 彗は、きっと自分の頭を撫でていてくれたのだろう。
 それで、また眠気が襲ってきて、そのまま眠ってしまったんだろう。
(彗さん…)
 体を動かして、自分の頭に添えられていた彗の片手を両手で軽く握る。
 自分よりも、大きな手。
 その手に込められる優しさ。
 手を触っているだけなのに、円花はそれを感じた。
 こういうとき、自分は彼のことが好きなんだなぁ。と改めて思ってしまう。
 と…ピクリと彗の指がかすかに反応した。
「ん……」
 どうやら、彗はもうそろそろ目覚めるだろう。
 円花は慌てて両手を彼の片手から離した。
 そして、ゆっくりと彗のすぐ近くで布団から顔を出す。
「お目覚めですか? 彗さん」
 まだボーっとする彗の視界の中に、円花の笑顔が度アップで写った。
「……」
 思考がフリーズし、視界が固定された。
 しかも、今気付いたことなのだが…、二人の足は絡み合っていた。
 逃げない、いや、逃げられない。
 彗の精神は急激に極限状態に追い込まれた。
「彗さん?」
 円花は、固まってしまった彗の様子に疑問を抱き始めていた。
 彗が冷静に行動できるまで、約数十分の時間がかかった。

続く


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