夕食を囲んだテーブルで彗と円花が向かい合って食べている。
 いつもの食卓の光景だった。
「ごめんなさい、彗さん…。いつも、家事を任せてしまって…」
「…いや、普通やるだろ」
 申し訳無さそうに言う円花に、彗の口癖のような言葉が出る。
 最初の頃は、めんどくさいとか思っていたが、最近では「まぁ、いいか」という感じで、家事をこなしている。
 確かに疲れる…とか、円花にも手伝ってほしい。などは思うのだが…、例えば自分の作った料理で円花の笑顔が見れれば、そんな疲れはどこかへ吹き飛んでしまうものだった。
「でも、私、一応居候ですし…」
「…そういえば、お前、まず料理出来るのか?」
「は、はい。彗さんほどうまくは出来ませんけど…」
 マジか!?
 彗は当然ながら、初耳の言葉だった。
「そうか…。料理は出来るのか」
「あ、あの…彗さん?」
 円花の言葉も、彗の耳には届かなかった。
 そのとき、彗は円花のエプロン姿を頭に思い浮かべていた。
『お帰りなさい。彗さん。ご飯できてますよ?』
 想像の中だけでも、反則的な可愛さだ。
 思わず抱きしめて…いや、自分だけのものにしたいようなそんな衝動に駆られる…。
 いや、一緒に料理をする。っていうのも魅力的だ。
 一緒に料理をしながら、機会があれば、円花を抱きしめて…そのまま…
『す、彗さん、やめてください…。今は料理中で…』
『料理が終わるまで、待てるかよ』
『あっ…、す、彗さん…』
 …危険な領域にまで、彗の思考は進んでいく。
「彗さん?」
 円花が声をかけると、彗の思考は止まった。
「それじゃあ、円花。今度、一緒に料理でもするか?」
「え? いいんですか?」
「あぁ。たまにはいいだろ?」
「そうですね…。それじゃあ、今度早く帰ってこれたときにしましょう」
「分かった」
 彗の顔はやけに笑顔だった。
 一体、何を企んでいるのやら…。
「あと、円花」
「何ですか?」
 ポリポリと頭を掻いて、彗は言う。
「今日の昼のこと…、別に迷惑とか思ってないからな?」
「え? …それはどういう…」
 彗に聞いても、彗は答えなかった。
 …円花は答えるのを恥ずかしがっている彗に気付かなかった。


続く


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