あれから数日…まぁ、色々とあったが土曜日になった。
 今日は彗と円花と秋乃が三人一緒に遊園地に行くはずなのだが…。
「円花。まだか?」
 彗がとっくのとうに準備は出来ているというのに…、円花の準備はまったくもって終わらなかった。
「あ、あと少しですから。彗さんは玄関で待っててください!」
 などと円花は数十分前から言っているのだが、これがちっとも終わらなかった。
 季節は夏。…とりあえず熱い。
 何もせずに、外で待っている…ということは彗にはちょびっと厳しかった。
「…まったく。何してるんだ? 円花のやつ…」
 昨日の円花の様子を見るからに、やけに張り切って見えたような気がしないでもない。
 と、そこへ…。
 階段をドタバタドタバタと急いで下りてくる音がした。
 やっと来たか…と思い、そちらへ視線を向けた瞬間…。
 彗は思わず唾を飲み込んだ。
「ご、ごめんなさい。彗さん。服を選ぶのが遅くなってしまって…」
 …そこにはワンピ姿の円花がいた。
 円花によく似合う青色を基調とした服で…あれから一緒にいるせいか、あまり意識しなくなっていたが、改めて彗は円花を可愛いと思ってしまった。
 そのせいか、思わず言葉を口にすることすら彗には出来なくなった。
「彗さん?」
 円花が反応しない彗を疑問に思っていた。
 そのためか、自然と体を彗に近づける。
 と、同時に…彗は無意識に行動に移った。
 円花の腕をグイッと強く引っ張り、自らの胸に彼女を閉じ込めてしまったのだ。
「彗…さん?」
 円花の背中にも、彗の腕がゆっくりと回される。
 円花は唖然として、まったく動けない。
 一方、彗の心の中では…『円花を他人の目に写されたくない』という独占欲が芽生えていた。
 それだけに限らず、ドクンッと独占欲に比例して、様々なことが彗の頭の中に浮かんでくる。
 …家の時計で時刻を確認する。
 …8:10。集合時刻は…今から5分前だ。
 秋乃は恐らく待っていることだろう…。
 だが、今の彗にとっては…遊園地に行くこと自体を心が、身体が拒んでいた
「彗さん…」
 円花の腕も彗の背中に回った。
 彗の心臓が高鳴り、自然と彗は次の行動に移っていく。
「…円花」
 自然と彗の顔が円花に近づいていく。
 …どういう意図だと、円花は感知したのかは誰にもわからない。
 …だが
「彗…さん」
 円花は目を瞑った。
 それが当たり前のように…。
 互いの顔が近づいていく。
 …互いの唇が近づいていく。
 …あと、3…2…1

 ピンポーン!
 ビクッ! と、二人は玄関のチャイムが鳴った瞬間に身体を震わせた。
 慌てて、身体を離すと…彗は玄関まで行く。
「…はい」
「…あっ。彗先輩!」
 秋乃さんだった。
 …なんというか、グッドタイミングである。(彼女にとっては)
 …そんな傍らで、円花は高鳴る心臓を、密かに抑えていた。

続く

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